遺伝性神経難病発症のしくみを解明。治療法開発に道

2013年5月30日
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ミトコンドリアはエネルギーのほとんどをつくり出す細胞の発電所です。ミトコンドリアの形態は融合と分裂のバランスにより調節されており、そのバランスが崩れるとミトコンドリアの機能が低下し、神経疾患などさまざまな病気を引き起こすことが知られています。またミトコンドリアは、タンパク質を合成する場である小胞体と近接して、カルシウムの受け渡しや脂質の代謝など細胞機能の維持に重要な役割を果たしていると考えられています。ミトコンドリアの融合因子であるMitofusin2(Mfn2)はミトコンドリアと小胞体の両方に局在して、お互いに手を繋ぐことによりミトコンドリアと小胞体の接着を仲介するタンパク質です。Mfn2の遺伝子に変異が起こると遺伝性の末梢神経疾患の一つであるシャルコー・マリー・トゥース病を引き起こすことがわかっていましたが、Mfn2の機能調節機構は未だ不明であり、その解明が期待されていました。柳教授らはミトコンドリアに局在する酵素であるMITOLがMfn2を活性化することにより、ミトコンドリアと小胞体の接着を促進することを世界で初めて明らかにしました。またMITOLの機能低下によってMfn2の活性化が抑制されるとミトコンドリアと小胞体の接着構造に異常が生じ、小胞体からミトコンドリアへ情報伝達が正常に働かないことがわかりました。本研究によりシャルコー・マリー・トゥース病のみならずアルツハイマー病などのさまざまな神経疾患の機序解明や治療法の開発が期待できます。この研究成果は米国東部時間2013年5月30日に米国科学雑誌Molecular Cellのオンライン版で掲載されました。


【研究の背景】

近年のイメージング解析技術の進歩により、ミトコンドリアの動的な移動や、小胞体などの他のオルガネラとの会合と解離現象が見出され、その生理的重要性が注目されています。柳教授らは以前の研究によってミトコンドリア外膜を4回貫通するユビキチンリガーゼMITOLを同定し、MITOLがミトコンドリアの分裂因子であるDrp1の分解を促進することによってミトコンドリアの形態を制御することなどを報告しました(図1A、文献1-4)。しかしながらMITOLの役割は未だ不明なところが多く、実際にMITOLの機能を抑制すると、ミトコンドリアの動きは止まり、小胞体との相互作用も阻害されることが観察されていました。このメカニズムを解明するためにMITOLの結合タンパク質を検索したところミトコンドリア外膜の融合因子であるMfn2が同定されました。Mfn2は小胞体膜上にも局在し、ミトコンドリア外膜上のMfn2と手をつなぐことにより、両オルガネラを繋ぎとめています(図1B、文献5, 6)。ミトコンドリアと小胞体は、可逆的に会合と解離を繰り返しており、なかでもミトコンドリアと小胞体の接着点はmitochondria-associated ER membrane: MAMと呼ばれ、脂質の生合成や小胞体-ミトコンドリア間のカルシウム伝達などに重要な役割を果たしていることが知られています。今回、柳教授らはMITOL によるMfn2の活性制御機構とMAM形成への影響について解析しました。



【研究成果】

1.MITOLはMfn2をユビキチン化しMfn2を活性化する

柳教授らは、MITOLがミトコンドリアと小胞体の接着点であるMAMにも局在していることを解明したため、Mfn2との会合について解析を行ったところ、MITOLは小胞体に局在するMfn2ではなく、ミトコンドリアに局在するMfn2と会合してユビキチン化することがわかりました(図2)。結合部位を詳細に調べた結果、MITOLの基質認識領域であるC末端がMfn2のHR1ドメインと特異的に認識して結合することがわかりました。MITOLはミトコンドリアに局在するMfn2をユビキチン化しますが、意外なことに、MITOLによるMfn2のユビキチン化は、Mfn2の分解を促進するのではなく、Mfn2 のGTP結合能力を上昇させてMfn2を活性化し、Mfn2の重合を誘導することがわかりました(図3)。MITOLの機能を抑制するとMfn2の活性化が抑制されてMfn2の重合を阻害することが示されました。



2.MITOLの機能抑制によりミトコンドリアと小胞体の接着形成が抑制される

MITOLの発現を安抑制したHeLa細胞(sh MITOL)において、小胞体とミトコンドリアの接着領域MAMが有意に減少することが確かめられました(図4A)。また、ヒスタミン刺激後のミトコンドリア内のカルシウムイオン濃度の変化を観察したところ、sh MITOLではコントロール細胞に比べてカルシウムイオン濃度の上昇が著しく抑制されることを見出しました(図4B)。ミトコンドリアのカルシウム取り込みに対する感受性は鈍いので、効率よく取り込むためには、MAMを形成して小胞体のカルシウム吹き出し口に近接する必要があります。したがって、sh MITOLではMfn2の複合体形成ができないためにMAMの形成不全が起こり、ミトコンドリアが小胞体から効率よくカルシウムを取り込めなかったと考えられます。


3.MITOLによるMfn2の制御機構モデル

柳教授らは、MITOLによるMfn2の活性化を介した小胞体とミトコンドリアの接着制御という新たなモデルを提唱しました(図4C)。MITOLはミトコンドリアに局在するMfn2と会合してMfn2の192番目のリジンを特異的にポリユビキチンします。ポリユビキチン化されたMfn2はGTP結合能力が上昇して活性化し、Mfn2の重合と複合体形成を起こします。その結果、ミトコンドリアのMfn2と小胞体のMfn2が手を繋ぐことによってミトコンドリアと小胞体の接着が起こります。



【今後の展望】

Mfn2は神経難病の原因の一つとしてその機能調節の解明が期待されていました。本研究によりMfn2の活性化機構が明らかとなり、病態解明と治療法の開発につながることが期待できます。さらにミトコンドリアと小胞体の接着点は、脂質の生合成やカルシウム伝達など細胞機能において重要な役割を果たしており、この機能の破綻がアルツハイマー病などの神経変性疾患をはじめさまざまな病気と密接に関与していることがこれまで多数報告されています。本研究によってミトコンドリアと小胞体の接着機構の一端が解明されたことより、関連する多くの疾患への病態理解と治療開発につながることが期待されます。



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A. MITOLはミトコンドリア外膜を4回貫通するユビキチンリガーゼである。N末端に酵素活性領域であるRINGフィンガードメインを持つ。MITOLは分裂因子Drp1を基質にしてミトコンドリアの形態を制御する。

B. ミトコンドリアと小胞体の接着点は、脂質の生合成や小胞体-ミトコンドリア間のカルシウム伝達などに重要な役割を果たしている。
(Merkwirth, et al, Cell, 135: 1165–1167, 2008より転載)



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A. MITOLは小胞体ではなくミトコンドリアのMfn2と結合する。(Mfn2ActAとMfn2IYFFはそれぞれ、ミトコンドリアおよび小胞体へのターゲットシグナルである)

B. MITOLを抑制した細胞においてMfn2のユビキチン化が減弱する。(M:MITOLの発現を抑制したHeLa細胞、G:コントロール)
(Sugiura. et al.: Mol. Cell, 2013より転載)



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A. MITOLを抑制した細胞においてMfn2の重合化と複合体形成が抑制される(Blue-Native PAGE解析)。

B. MITOLを抑制した細胞においてMfn2のGTP結合能が減少する。
(shMITOL:MITOLの発現を抑制したHeLa細胞、shGFP:コントロール)
(Sugiura. et al.: Mol. Cell, 2013より転載)



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A. MITOL発現抑制によりミトコンドリア(緑)と小胞体(赤)の接着(黄)が阻害された。

B. MITOL発現抑制によりヒスタミン1uMで刺激後のミトコンドリアのカルシウムイオン(Xrhod-2により標識)の取り込み量が低下した。

C. MITOLによるMfn2を介した小胞体-ミトコンドリア接着の制御機構モデル。MITOLがミトコンドリアのMfn2をユビキチン化し活性化する。Mfn2は小胞体膜のMfn2と手をつなぎ、高分子量複合体を形成しミトコンドリアと小胞体が接着する。
(Sugiura. et al.: Mol. Cell, 2013より転載)




(参考文献)
1.Yonashiro, R. et al. A novel mitochondrial ubiquitin ligase plays a critical role in mitochondrial dynamics. EMBO J. 25, 3618-3626 (2006).
2.Yonashiro, R. et al. Mitochondrial ubiquitin ligase MITOL ubiquitinates mutant SOD1 and attenuates mutant SOD1-induced ROS generation. Mol. Biol. Cell 20, 4254-4530 (2009).
3.Yonashiro, R. et al. Mitochondrial ubiquitin ligase MITOL blocks S-nitrosylated MAP1B-light chain 1-mediated mitochondrial dysfunction and neuronal cell death. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 109, 2382-2387 (2012).
4.Sugiura, A. et al. A mitochondrial ubiquitin ligase MITOL controls cell toxicity of polyglutamine-expanded protein. Mitochondrion 11, 139-146 (2011).
5.Merkwirth, C. & Langer, T. Mitofusin 2 builds a bridge between ER and mitochondria. Cell 135, 1165-1167 (2008).
6.de Brito, O.M. & Scorrano, L. Mitofusin 2 tethers endoplasmic reticulum to mitochondria. Nature 456, 605-610 (2008).



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 東京薬科大学 生命科学部 生命医科学科 分子生化学研究室 教授 柳 茂(やなぎ・しげる)
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