学科紹介 老化が起こるしくみ その2
「老化が起こるしくみ、その1」で、細胞には寿命があり、一定の回数以上は分裂することができないこと。その原因の一つとして染色体の「テロメアの短縮」という現象をあげました。
一方で、私たちの体の中には、通常の体細胞とは異なりテロメアの短縮が起こらず、細胞分裂する能力が衰えない、つまり寿命のない細胞が存在します。それは、生殖系列の細胞です。精子、卵子を生み出す生殖細胞は分裂を繰り返してもテロメアの短縮は起りません。そうでなければ、年齢が高い両親から生まれた子供は、若い夫婦から生まれた子供に比べて、テロメアが短くなってしまう、つまり生まれたときから老化が進んでいる、ということになってしまいます。現実にはこの様なことは起こりません。その理由は、生殖細胞では、短縮したテロメアを修復するテロメラーゼという酵素が働いているからです。
テロメア短縮の起こらないもう一つの例はがん細胞です。がん細胞は、もともとは、正常だった細胞の遺伝子に変異が生じてしまったために無限に増殖する性質をもってしまった細胞です。正常な細胞の場合、分裂が進むに従ってテロメアの短縮が進み、ある一定以上は分裂しなくなります。しかし、がん細胞では、テロメラーゼの活性が高くなっているために細胞分裂をいくら繰り返しても、テロメアの短縮は起りません。つまり、がん細胞が無限に増殖を繰り返すようになってしまった理由の一つとしてテロメアの短縮が起こらなくなってしまった事が考えられます。将来、がん細胞のテロメラーゼを阻害する薬剤を見つけ出し、がん細胞が無限に増殖することを防ぐことによって、がんの治療に利用することが可能になるかもしれません。
今までの話から、一つ一つの細胞の寿命にとって、テロメアが重要な働きをしていることはわかりました。しかし、マウスの染色体を見てみると、テロメアが非常に長く、一個体の一生の間には細胞分裂が止まってしまうほどのテロメアの短縮は起こりません。これは、細胞の寿命と個体の寿命は必ずしも一致しないことを示しており、テロメアと個体の寿命との関係については今後のさらなる研究が必要です。
図.1 細胞分裂に伴うテロメアの短縮