研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 感染症・腫瘍・免疫アレルギー疾患を克服する

大野 尚仁 教授

薬学部 医療衛生薬学科 免疫学教室

健康寿命の延伸に向けて

ヒトはさまざまな生物と共生関係にあります。微生物は常在菌叢を形成し皮膚や粘膜を覆い保護しています。病原性微生物はこのバリアを突破し、体内に侵入して感染症を起こします。また、がんや自己免疫疾患など様々な難病患者では常在菌叢の乱れが認められており、高次の生体防御機構への常在菌叢ならびに微生物菌体成分の関与が注目されています。
免疫機構は獲得免疫ならびに自然免疫に大別されます。前者は抗体やリンパ球による抗原特異的認識によって、後者は樹状細胞やマクロファージによるパターン認識によって活性化されます。自然免疫研究は20世紀の終わりころから急速に進歩しパターン認識の仕組みが多数見いだされてきました。微生物細胞壁の多糖類は代表的なパターン認識分子であり、pathogen associated molecular patterns(PAMPs)と総称されています。PAMPsの受容体はpattern recognition receptors(PRRs)と総称されています。先駆けとなったのは敗血症の原因物質であるエンドトキシン(LPS)に関する研究であり、その受容体であるToll like receptor 4(TLR4)の研究は2011年のノーベル生理学医学賞につながりました(Beutler & Hoffmann)。
免疫学教室では、真核微生物(真菌)菌体成分と宿主との相互作用をさまざまな角度から解析し、免疫異常が関わる難治性疾患の診断・治療薬の創出をめざしています。難治性疾患は慢性炎症の病態を示すことが多く、症状改善は、QOL向上、健康寿命の延伸に繋がります。

自然免疫受容体の機能性の解析

真菌は、深在性真菌症、表在性真菌症として疾病の原因となるとともに、環境中に広く存在し、アレルギー疾患の原因、腐敗・食中毒、衣類・建材の黴など、様々な角度から対策が求められています。真菌由来のPAMPsとしてβ1,3-グルカン(BG)とマンナン(MN)がよく知られています。我々は共同研究者と共にPRR遺伝子欠損動物(KO)を用いて、BG受容体としてdectin-1を、MN受容体としてdectin-2を見出しました。また、dectin-1はマクロファージによるBG粒子の貪食と活性酸素産生を介した殺菌を司り、ニューモシスチス菌に対する感染防御に、dectin-2はマクロファージからのIL-1βならびにIL-23産生を介したTh17細胞の分化を司り、カンジダ菌に対する感染防御に重要な分子であることを明らかにしました。

自然免疫受容体の分子認識機構の解析

真菌細胞壁BGは繰り返し構造を持つ高分子多糖類です。細胞壁は籠型の不溶性分子ですが、菌の増殖に伴い成長点ではBGの合成と分解が繰り返されています。深在性真菌症患者血中には、分解により生じた可溶性BGが放出されています。籠型BGは活性酸素産生能、サイトカイン産生能など強い活性を示しますが、可溶性BGは活性酸素産生能を失っています。Dectin-1はレクチン様の糖鎖認識ドメインとITAM構造を有する細胞内ドメインから構成されています。合成オリゴ糖を用いた研究により、16残基のBGは中等度の親和性であったことから、機能発現には、高分子化に伴う分子集合による強力な細胞内シグナル伝達が必要であることが示唆されました。現在、籠型、可溶性、低分子の各BGの医薬品・食品への応用を目指しています。

自然免疫受容体の病態モデル解析への応用

川崎病は1967年に川崎富作博士によって初めて報告された小児疾患であり、現在も原因不明です。グロブリン治療が確立したものの冠状動脈炎・動脈瘤を伴う難治性症例への対応は現在も求められています。CAWSはカンジダ菌が菌体外に放出するMNであり、マウスに血管炎を惹起することから、川崎病の動物モデルとして汎用されています。Dectin-2欠損マウスは、CAWS血管炎を惹起しないことから、本血管炎には、自然免疫系を介したMN認識が関与するものと考えられます。
当教室では、上記に加え、リウマチモデル、潰瘍性大腸炎モデル、アレルギーモデル、敗血症モデル等を用いて、難治性疾患へのPAMPs-PRRsの関与について検討を進めています。

今後の展望

これまで私たちは自然免疫の活性化に関わる真菌PAMPsを研究対象とし、構造と活性ならびに病態モデルを用いた検査法ならびに治療法の開発を行ってきました。常在菌叢が生体の恒常性に与える影響は計り知れません。生体と微生物叢の相互作用を検討することによって、今後も超高齢社会における疾患の予防、診断、治療法の解析を通じて健康増進に貢献していきたいと考えています。