研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 創薬・再生医療を目指した細胞接着分子の機能解明と応用

野水 基義 教授

薬学部 医療薬物薬学科 病態生化学教室

再生医療を可能にするバイオマテリアル

近年、病気や事故などの理由によって失われた生体組織・臓器に対して、人工的に培養した細胞を用いてその機能の再生・回復をはかる、”再生医療“が注目を集めています。再生医療に用いられる細胞は、一般的にその足場となる生体材料 (バイオマテリアル) に接着させ増殖させることが必要となります。生体において、細胞の足場として働いているものに細胞外マトリックスがあります。細胞外マトリックスは細胞に接着し、細胞の機能的な足場であると共に、組織の再生においても重要な役割を担っていることから、再生医療に向けたバイオマテリアルの開発では細胞外マトリックスの構造や働きを模倣することが必要不可欠であると考えられています。

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基底膜とラミニン

基底膜は,血管,筋肉細胞,神経細胞の周囲や表皮下など,全身に広く分布している薄い膜状の細胞外マトリックスで、コラーゲン、プロテオグリカン、ラミニンとなどの複数のタンパク質から構成されています。これらの構成成分が互いに結合することで,組織の構造的支持のみならず個体の発生や修復など様々な生命現象に関与することが知られています。 例えば、皮膚組織では基底膜は表皮の真皮の境目に有り、基底膜上で表皮細胞が誕生し、角化して角層となっていきます。すなわち、皮膚組織では基底膜はお肌の原点ということになります。基底膜の中で細胞接着に最も関係しているのがラミニンです。

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ラミニン由来ペプチドの開発と生物活性の同定

ラミニンは細胞接着に加え、血管新生や神経突起伸長など様々な生物活性を有しています。ラミニンの活性部位(配列)を同定する目的で、ラミニンのアミノ酸配列を網羅する約3000種類の合成ペプチドを用いたシステマティックなスクリーニングを行い、数多くの生物活性部位を同定してきました。図2には、最も代表的なラミニン-111のペプチドによるスクリーニングのスキームを示しました。活性のあったペプチドの中には、インテグリンやシンデカン(膜貫通型プロテオグリカン)などの特異的な受容体に結合するものや、血管新生や神経突起伸長を促進するものが存在し、細胞特異的な活性を持つこともわかってきました。このようにペプチドを用いてラミニンの生物活性を同定することによって、複雑な生物活性をもったラミニンの詳細な機能を解明することが可能となりました。

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ペプチドを用いて基底膜を模倣する

基底膜の機能の中心的な役割を担っているラミニンの分子解剖によって、数多くの活性ペプチドを同定してきました。これらの活性ペプチドを用いて、基底膜の働きを模倣した人工分子の開発に取り組んでいます。キトサン、ヒアルロン酸、アガロースなどマトリックス(ゲル)を形成する高分子多糖にラミニン由来の活性ペプチドを結合させることで、細胞に対して作用するバイオマテリアル「ペプチド-マトリックス」の作製に成功しました。複数の活性ペプチドを組み合わせて結合したペプチド-マトリックスを用いることで、基底膜の物理的環境と多様な生物活性を模倣した「人工基底膜」の開発にも取り組んでいます。

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細胞接着分子の機能解明を通じて医療の発展に貢献する

合成してきたラミニン由来細胞接着ペプチドは、細胞表面の受容体に特異的に結合することから、再生医療への利用のみならず、抗がん剤や創傷治癒剤などの創薬、目的の細胞選択的に薬物を送達するドラッグデリバリーシステム(DDS)に応用することも可能で、関連の研究を行っています。近年、基底膜中のタンパクを活用した化粧品が数多く開発されるなど、様々な分野で基底膜の機能とその重要性が認識されつつあり、我々の日常生活のより身近な存在となってきています。これからもラミニンペプチドの詳細な機能解析を通じて、細胞接着分子の生物活性の解明、創薬、DDS応用、バイオマテリアルの開発を行い、医療の発展に貢献したいと考えています。

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