研究者が語る 東薬の先端研究

タンパク質から宇宙まで、生命の起源を探る研究は好奇心に満ちている
生命誕生の場所はどこ? 解明のために深海へ

タンパク質の原子構造模型

 研究者なら誰しも興味の対象をとことん追求せずにはいられないに違いない。だがそのために潜水艦から飛行機、気球、宇宙船まで駆使し、海底から宇宙までを軽々と研究フィールドにしてしまう人は、そうはいないだろう。しかし生命科学部の山岸明彦教授はそれを当然のように成し遂げる。スケールの大きさは並大抵ではない。

 現在取り組んでいる研究の数は膨大だ。そのなかで二本柱は『生命の進化』と『タンパク質工学』。まずは海底のフィールドから話は始まる。
「生命の起源を知るため、今から40億年ほど前、生命が誕生して間もない頃の生物について研究しています。当時の生き物はおそらく海底熱水噴出孔というところで生きていたと思う。光合成ができないので、水素や硫化水素など地底から出てくるエネルギーを使って生きていたはず。そのことを実証するため、潜水艦で潜り、深海の微生物がどのように生きているかを調査・研究しているわけです」

 ところで、地球上に現存する生物の遺伝子を遡ると、37~40億年前はひとつの生物だったと推定されるという。
「その生物が持っていた遺伝子も推定できる。では、その祖先生物の遺伝子を作ろうと。すでにいくつか出来ていて、今はその遺伝子情報から、40億年前のタンパク質を作ることに挑戦している。すると、驚いたことに90℃でも100℃でも壊れないタンパク質が出来てしまった。そのことから、昔の生物が高温の場所にいたに違いないという答えが導かれるのです」

耐熱性タンパク質の実用化をめざせ

 40億年前のタンパク質づくりから出来上がった耐熱性タンパク質は、実はこれまで長年作りたいと思っても、人工的には作ることが叶わなかったものだ。
「タンパク質工学は、遺伝子を変えることで性質を変化させ、役立つタンパク質を作る研究。試行錯誤して遺伝子の設計をする方法と、ランダムに変異遺伝子を作っていくという2つのアプローチ方法があったけれど、私たちが最終的に辿り着いたのはそのどちらでもない、『生き物の過去に戻る』というやり方でした」

 その「祖先型耐熱化」と呼ばれる方法で耐熱化したタンパク質の実用化を企業と協同で進めているところだ。
「すでにタンパク質は血糖値測定装置やプラスチックを作るときに使われていて、パンやビールを作るときにも使える、それを耐熱化したらどうだろう」

 今後の研究次第では、パルプの漂白にも使えそうだという。いまは塩素漂白だが、それだとダイオキシンが発生する。そこで公害の心配のないタンパク質を使った漂白に期待が集まる。さらに「うまくいったらすごい」と目を輝かせるのは、燃料電池だ。開発中のブドウ糖を使う燃料電池にタンパク質が使えないか検討中だという。

山岸教授の研究室には薬品や機材が所狭しと並んでいる。
くっつけ、タンパク質! 夢のバイオナノ実現へ

 タンパク質工学の研究で、これから力を入れていきたい分野が『バイオナノテクノロジー』だという。
「タンパク質同士、あるいは金属のように異質なものをタンパク質とくっつける研究です。現状ではタンパク質を思ったとおりの形を作ることが難しく、試行錯誤している」

 しかし実現すれば、タンパク質でさまざまなものが自由自在に作れるようになると考えている。
「あわよくばそれを動かし、電気を通したい。電気を流すタンパク質をつなげて、それを金属につけてやれば、金属と金属の間で電流が流れる、とかね。つまり、いま半導体や機械でやっていることを、数ナノメートル(1/10億メートル)の微小サイズでできるようにしたいわけです」
「ホラ話だよって、今は言ってますけどね」と笑うが、「今は」と差し込んだ言葉に、いつかきっと実現するという強い確信が込められているように感じられた。

生命の起源の答えは宇宙にある?

「コンピューターが並べたアミノ酸のミスを見つけるのが趣味」と語る山岸教授。宇宙空間で微生物を探す「たんぽぽ計画」

 山岸教授は好奇心をあきらめずに形にしていく。なかでもスケールの大きい好奇心といえば、宇宙だろう。
「きっかけはロシアの宇宙船『ミール』内の微生物調査を手伝ったこと。ふと、宇宙船の外にはいないの?と思ったんです」

 さすがの山岸教授でも、いきなり宇宙で調査とはいかなかったが、まずは実験用飛行機、次に気球でサンプリングを成功させていく。そしていよいよ宇宙に。
「真空で微粒子をつかまえる『エアロゲル』という装置を使うことになったが、宇宙では毎秒8kmで飛び続けないと落ちてしまう。金属がその速度で装置にぶつかると、原子はバラバラになる。では、宇宙の微生物がエアロゲルにぶつかったら? それで4km/秒の速度で実験を行った結果、微生物のDNAが残っていることが確認された。そこで立ち上げたのが『たんぽぽ計画』です」

 国際宇宙ステーション(ISS)の実験棟『きぼう』で宇宙空間を漂う微生物を採取し、生命の起源解明につながる有機物を探し出そうという計画だが、「実現までにあと4~5回の試験が必要」とのこと。待ち遠しい。

プロジェクト始動! 火星の微生物を探せ

 さらに山岸教授の好奇心に火を点けたのが火星だ。
「5年前まで、火星に微生物なんて絶対にいないと思っていた。だから火星の生命探査について意見を求められたときも、やめたほうがいいって言っていたんだ」

 ところが2009年、山岸教授は180度考えを変えるに至る。火星でメタンが見つかったのだ。しかもほぼ同時期に、地球ではメタンを食べる微生物も見つかった。だったら火星に微生物がいないとは言い切れない。

 その年の9月、さっそく探査チーム『JAMP』を立ち上げ、翌年『MELOS ミーロス』というプロジェクトからも一緒にやろうと誘いを受けた。「うまくいけば2020年くらいには実現するかもしれない」と山岸教授。

 生命の起源に挑む山岸教授の挑戦は40億年の時と空間を自在に駆けめぐりながら、まだまだ続く。