研究活動

研究者が語る 東薬の先端研究

難治性疾患の治療薬開発に挑む!

研究者が語る 東薬の先端研究

企業ができないならば大学で! 難治性疾患の治療薬開発に果敢に挑む!
大学だからできる創薬研究がある!

創薬化合物の研究データ

 一つの薬の開発に1000億円かかると言われる創薬の世界。そこに大学の研究室が挑む意義とは何だろうか? 薬学部の林良雄教授に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「世の中には企業があまりタッチしない、いわゆるニッチの分野にも薬のニーズがあります。たとえば難治性疾患は、たとえ数が少なくても、悩んでいる患者さんは実際にそこにいるわけです。だから私たちはそういう人達のために薬を開発する。企業ができない創薬、それが大学で創薬をやる意義だと思っています」

 もちろん最後は製薬会社の力を借りなければ薬は作れない。臨床試験のノウハウを持っているのは製薬会社だ。

「だからこそ、なるほど市場性はないけれど、大学の研究室がここまでやったのなら、後はうちで引き受けようと製薬会社に言ってもらえるような成果を出していきたい。それが最終的に患者さんたちの福音につながればいい」

筋ジストロフィー治療薬への可能性

 林教授が研究テーマに掲げているのは難治性疾患だ。たとえば、がんや遺伝病、SARSなどの新興再興感染症などで、特に遺伝病治療薬の創製に力を入れている。

 注目したのがジペプチド型抗生物質ネガマイシン。約40年前に発見されたが、毒性があるということで見向きもされずに片づけられていた物質だ。ところがいま、その物質に光を当てる研究が進んでいる。
「デュシェンヌ型筋ジストロフィーの20%は、ジストロフィン遺伝子のナンセンス変異が原因で発病します。タンパク質生合成の際、生合成終了のサインとなる終始コドンが突然変異で遺伝子の途中に挿入され(PTC)不完全なタンパク質ができてしまうのです。ところがネガマイシンには、途中に挿入された終始コドンを読み飛ばす不思議な性質があり、完全なタンパク質を産生することができるのです」

 10年ほど前からこの性質が着目され、薬に応用することが提唱されるようになった。
「私たちはペプチドの化学合成技術を駆使して創薬の開発に着手。ネガマイシンの化学構造において特定の部位に注目し、より高い活性と安全性が得られる薬の開発に取り組んでいます」

 また、30年以上前に発見された別の天然化合物にも遺伝子読み飛ばし作用があることを林教授の研究室が突き止めた。さらに構造を一つひとつ変えて試すなかで、ネガマイシンよりもジストロフィン発現率の高いものができてきたという。現在ネガマイシンが有する10%のジストロフィン発現率を約20%まで引き上げられれば筋肉の張力が出るのではないかと言われている。治療薬として大いに可能性を秘めていると言えるだろう。

林教授の研究室は、今まさに実験中の機器でいっぱいだった。
研究の応用で薬の恩恵をできるだけ多くの人へ

 林教授が茶目っ気たっぷりにアニメのキャラクターからとって「マイティマウス・ペプチド」と名付けた合成ペプチドがある。筋肉の成長を抑制するマイオスタチンというホルモンの機能を阻害する働きがあることから、筋ジストロフィー治療に光明となる物質だ。

「この創薬の対象は筋ジストロフィー患者が第一義ではありますが、適用範囲を広げることで、寝たきりになっている方の治療にも役立てられるのではないかと考えています。筋肉量を増やすことができれば、立って歩ける方も増えるでしょう」

 研究の取りかかりはニッチなターゲットであっても、うまく開発して育てることによって、応用が広がることで、恩恵を受ける人が増えるかもしれない。

「自分たちの研究がどのように応用できるだろうかと、いつも頭を柔らかくして考えています。私たちは、夢を追いながら創薬に取り組んでいるのです」

チャレンジしがいがある抗がん剤開発

日本薬学会から学術振興賞を表彰された時の盾

 抗がん剤開発も、林教授にとっての重要なテーマ。いま取り組んでいるプリナブリン(Plinabulin)は、カビからとれたフェニラヒスチンという天然物の化学構造を少しずつ変えながら抗がん活性を持った分子に作り替えてきたものだ。

「プリナブリンには、チューブリンというタンパク質に作用してその機能を抑えることで、がん細胞が成長するために必要な新生血管を壊す血管遮断剤の作用があります。現在アメリカで臨床実験中で、3段階のうち2段階まで終了したところですが、使い方の難しさという課題にもぶつかっています。がんを兵糧攻めにする役目は果たすのですが、新生血管を壊してしまうために次の抗がん剤が入らなくなってしまうのです」

 薬の開発とは一筋縄ではいかぬものらしい。

 現在はこのプリナブリンの分子構造を変えながら新しい誘導体を作る研究も行っている。すでに新しい化学構造も出てきて「これから細胞レベルでがん細胞に対する毒性を見ていくのですが、結果が楽しみです」と言う。

トータルな化学の知識で一つの薬を作り上げる

 創薬の世界は1万3000個の化合物を作って、その中の一つが薬になるかならないかというハズレの多い分野だと言う。だからこそ、自分は「モレキュラー(molecular 分子)デザイナー」だという自負を持って臨む。

「創薬は総合科学です。薬理作用、薬のターゲットへの選択性、作用時間、副作用、投与形態、体内分布、製造コストの問題…と、ありとあらゆる要求項目をたった一つの化学構造で表現しなければならない。その一つの化学構造を導き出すために、有機化学だけではなく、薬理学、薬剤学、薬物動体学など、すべての知識を総合する必要があるのです」

 そして「薬学はあくまでも実学」と力を込める。化合物を作ることが目的ではなくスタートなのだ。

「目的を持った分子を作り、それを薬にし、患者さんを治すというところが私たちの最終目標なのです」