研究活動

研究者が語る 東薬の先端研究

動脈硬化の診断・治療薬を研究!

研究者が語る 東薬の先端研究

10年後を見据えた基礎研究で動脈硬化の診断・治療薬の開発につなげる!
ペプチドサイエンスで日本人の3大死因に挑む

国際高血圧学会で若手最優秀賞を受賞したときの写真

 日本人の3大死因と呼ばれているのが、がん、心疾患(虚血性心疾患)、脳血管疾患(脳卒中)で、共通しているのは、すべて血管に関わる病気ということだ。実はがんも、細胞の増殖や転移には血管の存在が欠かせない。
そうした病気に対し、アミノ酸の結合体であるペプチドを駆使して治療法を開発しようと取り組んでいるのが、心血管医科学研究室の渡部琢也教授だ。特に動脈硬化性疾患の診断薬や治療薬の創薬をメインテーマにしている。

 動脈硬化性疾患の治療法といえば、高コレステロール血症、糖尿病や高血圧といった危険因子に対し、血液中のコレステロール、血糖値や血圧を下げる対症療法が一般的。それに対して渡部教授が提案する治療法は対症療法とは一線を画し、ペプチドで真っ向勝負を挑む。
「新たな化合物を創るのではなく、もともと身体の中にあるペプチドを上手に利用して、動脈の壁や細胞に直接働きかける方法です。動脈の病変部において、遺伝子や分子を動かすことにより、動脈硬化を予防したり治療しようというのが、新しいコンセプトなのです」

 血管で産生され、ホルモンを構成するペプチドは、発見されていないものも相当数あると言われている。そこで渡部教授はさらに踏み込み、コンピュータ上でペプチドの新規配列を探り、合成することにも着手した。さらに合成したものが本当に身体に存在するかを抗体を使って検証したうえで善玉か悪玉かを丁寧に仕分けしている。さて、仕分けができたところからが研究の核心部分だ。

ペプチドで身体にひそむ病気の発症を予測

 渡部教授が自ら「ユニークな手法」と呼ぶのは、ペプチドを善玉か悪玉かで丁寧に仕分けながら、特に善玉ペプチドにスポットを当てている点だ。
「これまでは動脈硬化を引き起こす悪玉をなんとかしようと、悪玉ペプチドの受容体拮抗剤を開発してきた経緯もあります。しかし最近は逆転の発想で、『善玉が極端に減っている場合も疾患につながる』というところに着目しています。エコー等の画像検査ではまだ病変が見つからないケースでも、身体の中にどのくらい病気がひそんでいるかをあぶり出し、近い将来発症するだろうと予測する因子としてペプチドを利用できると考えています」

 さらにペプチドを組み合わせれば、発症の可能性をより高い確率で判断することができると渡部教授は言う。
「遺伝子診断のようなものですね。しかも遺伝子に比べて、手軽に診断できるメリットがあります」

 がんの腫瘍マーカーがいち早く開発されたのに比べ、動脈硬化に起因する血管病を診断するマーカーはこれまで的確なものが見いだされてこなかった。今回、渡部教授が見いだしたペプチドのバイオマーカーとしての可能性は、大きな一歩となるに違いない。

書棚にはぶ厚い専門書がズラリと並ぶ
副作用の少ない動脈硬化の予防薬開発へ

  ペプチドの可能性は診断薬だけに留まらない。善玉のペプチドであればそのまま予防薬として使うことができ、診断薬と予防薬を一体化することができる。ペプチドはもともと身体の中にあるものなので、投与することによる副作用が少ないのもメリットだ。

「ペプチドを組み合わせることで、効率よく動脈の遺伝子を動かして予防することも可能になるでしょう。ただ、ペプチドは口からそのまま飲むと消化酵素で分解されてしまうため、局所注入か注射薬にする必要がある。あるいは分解されにくい構造に作り替えるなど、いずれにせよDDS(Drug Delivery System/薬物送達システム)の技術が重要になってくると思います」

基礎研究と臨床の橋渡しをする研究を

研究室には学生からのプレゼントなど、多くのヌイグルミが置かれている

 「私たちの研究は、細胞の培養といった基礎研究から臨床に実用化させるまでの橋渡しの研究。トランスレーショナルリサーチと呼ばれるものです」

 その研究には3本柱としているものがある。
「ひとつはヒトの細胞にこだわった研究で、動脈硬化に重要な現象とペプチドの関連性をヒトの細胞を培養して実験しています。2つめは、動脈硬化患者の病変部を使って悪玉や善玉ペプチドの存在や欠落を調べる研究。しかし病変部にペプチドが存在しても、病気の原因なのか結果なのか、偶然なのかが証明できない。そこを明確に証明するのが、3つめの細胞実験と臨床をつなぐ役割の動物実験です」

 その三位一体の検証データにより、渡部教授の研究はすでにいくつか特許を取得している。「今後は治療薬の実現に向けて本気で開発していきたい」と力を込める。

10年後の医療を創り出す研究をしよう!

 渡部教授は現役の内科の医師でもある。その立場で実感しているのが医療現場の忙しさだ。

「医学部では臨床医の育成が急務とされ、長いスパンで治療法や診断薬を考えるゆとりがありません。そこで、私たちが時間とマンパワーをかけて10年後を見据えた基礎医学に取り組み、医療現場に提言していく。特許を取り、診断薬を開発し、臨床医に使ってもらう。そういう医療還元をめざして、私たちは研究しています」

 姉妹校の東京医科大学との人材交流や共同研究など、医学部と連携した環境づくりも行っている。「医学部や生命科学部、薬学部が得意な分野を分担しながら一体となって大きな成果をめざす時代になってきたのではないか」と渡部教授は言う。

 そうした時代の要請を得て、2013年度から生命科学部は分子生命科学科、応用生命科学科、そして渡部教授の研究室を含む生命医科学科の3学科制となる。

「現状の医学では治せない病気を治したい、時間をかけても新しい治療法を開発したい、そういう意欲のある学生に来てもらいたいですね」と話す、その語り口は終始やわらかい。しかしその言葉には「10年後の医療を創り出し、支えるのだ」という強い自負が感じられた。