スタッフブログ 日本で有数!モバイルファーマシーとは?

  • 薬学部

2022.11.29

モバイルファーマシーとは何か、ご存じですか?
モバイルファーマシーとは、主に災害時に利用することを想定として作られた車のことです。災害時に医薬品を搭載して出動し、被災地で簡易的な薬局として活躍します。
東日本大震災の後、宮城県薬剤師会と株式会社バンテックとの共同開発により「モバイルファーマシー」は誕生しました。
今回は、東京薬科大学のモバイルファーマシーを管理されている、松本有右常務理事に取材をさせていただきました!

mobile-p1.jpg東京薬科大学が所有するモバイルファーマシー

松本理事はとても気さくな優しい方で、明るい雰囲気の中インタビューを行わせていただきました!
熊本地震の際には実際に現地で活躍されたという松本理事は、震災に対する真摯な思いや貴重な体験談を丁寧にお話してくださいました。ありがとうございました!

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モバイルファーマシーが活躍する機会

モバイルファーマシーは名前の通り「移動する薬局」です。災害時に薬局の調剤室の役割を果たし、災害現場で活躍する車となります。実際、熊本地震の時には災害派遣薬剤師とともにモバイルファーマシーは大活躍しました。
災害時のモバイルファーマシーは「薬を貯蔵する場所」「薬を調剤する場所」として使われます。モバイルファーマシー自体が被災地内で動き回るのではなく、一つの避難所に拠点として車を停めておき、調剤した薬はそこから小さい車で運ばれます。
平時には八王子市の小・中学校に防災の話をするときに一緒に出向き、実物を見せることで災害学習に役立てています。また、八王子市が実施している防災訓練にも参加し、地域住民の防災・減災に役立つ活動も行っています!

ワクチン接種とモバイルファーマシー

八王子におけるワクチン接種の際には本学モバイルファーマシーは、その活躍ぶりが評価されテレビ等の数社のマスメディアに取り上げられました。
地域の学校が接種会場として利用される際、朝の準備時間の短さが問題となっていました。会場設営を行い、医師と看護師が準備を整えるとすぐにワクチン接種開始の時間となってしまいます。そのため、モバイルファーマシーの中で希釈・分注などのワクチンの調製を行うことでよりスムーズに接種が行えるようになりました。

mobile-p3.jpgたくさんの薬が入る車内

mobile-p4.jpgモバイルファーマシーのためだけに作られた小型の分包機

東京薬科大学がモバイルファーマシーを所有している理由

モバイルファーマシーを購入することで本学の薬学教育と地域住民への社会貢献をしたい、という東薬の楠文代理事長の発案により、東薬は現在モバイルファーマシーを所有しています。
松本理事自身が熊本地震の際に現地で活用した経験を楠理事長に報告したことにより、導入が決まりました。
また、学生の2年次の選択科目のゼミナールで「災害医療学」が設けられており、その中ではモバイルファーマシーの活動意義や薬剤師の仕事について講座があります。このゼミナールは、実物を見て触れることで学生の印象に残り、学習が深められるという利点があります!

モバイルファーマシーの課題

現在、「車の設備や装備を熟知している人材が少ない」という問題があります。モバイルファーマシーの使い手が少ないと十分に活用することができないため、モバイルファーマシーを使える人材を増やしていくことが1番の課題です。
実際の被災地の現場では、「被害を受けた道路をモバイルファーマシーが通れないことがある」というのが大変です。熊本地震で目的の避難所までの道路が陥没や倒木などで通れなかった際には、自衛隊の方に協力をお願いしました。迂回して行く道を聞いたり、道路を補修しながら進む自衛隊の専用車について避難所まで案内をしてもらったりすることで問題を解決しました!

mobile-p5.jpg災害現場で実際に医薬品が並ぶ様子

これからの活躍

モバイルファーマシーはこれからどのような場面で生かしていけるのでしょうか?
災害大国と言われるぐらいの日本ですが、大きな災害が日々起こる訳ではありません。そのため、防災訓練を通じて災害時における医薬品の使い方等の啓発活動に使うのが最も現実的な使用方法だと松本理事は考えています。
現在はコロナ禍なので、地域行政や地域薬剤師会と協力して簡易的なPCR検査機器等を積んで、僻地に住んでいる地域住民に迅速な検査をする、というのもモバイルファーマシーの有効利用に繋がるかもしれません。
またモバイルファーマシーは自律的に発電できるため、地震だけでなく台風による停電が起こった際の充電設備としても活用できるそうです!

mobile-p6.jpg実際にモバイルファーマシーの中を見学させていただきました!

~災害知識の~ 豆知識コーナー

災害時に派遣された薬剤師の仕事内容とは?

薬剤師の仕事は、大きく『調剤』『医薬品の供給』『公衆衛生』の3つがあります。調剤・医薬品の供給については想像しやすいですが、公衆衛生とはどのような仕事なのでしょうか。『公衆衛生』では、避難所の空気中のCO2やホルムアルデヒドの濃度を測定すること・トイレの消毒薬を作ること等、避難所の衛生管理を行っています。例えば、避難所でトイレの衛生環境に問題がある場所が見つかった場合でも、適した薬剤をすぐに入手できるわけではありません。実際の災害の際も「一般的に販売されている液体塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)を使って消毒薬を調製する」ということが行われ、問題が見つかった次の日にすぐに対応することができたそうです!

mobile-p7.jpg現場で実際に薬剤師の方が調製した消毒液

災害時にはどのように薬が処方されるの?

熊本地震の際には、臨時処方箋という手書きの処方箋が出されました。災害時、医師の先生は何の薬が保管されているのかについては把握していない場合もあります。また、モバイルファーマシーでは医療用医薬品ではなく一般用医薬品も多く持ち込まれるため、患者さんが普段服用している薬と同じものを必ずしも処方できるわけではありません。そのため、
①医師と患者が話している室内で薬剤師が話を一緒に聞く
②必要な薬を薬剤師が考えて処方提案をする
③その提案が受け入れられた場合に処方箋に医師が記入する
という形がとられました。
また、普段は処方箋がなく購入できる一般用医薬品も被災地では在庫に限りがあるため、医師や薬剤師が必要かどうかを判断し、薬が足りなくならないように在庫管理を行いながら処方と調剤が行われます。

ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございました。
モバイルファーマシーは東薬の敷地内で管理されているためこの記事を読んで興味を持ってくださった方はぜひ東薬へお越しください!

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