朝枝 里緒菜

生命科学部 分子生命科学科 2年(取材当時)

私立桜丘中学・高等学校 出身

社会と科学をつなぐサイエンスコミュニケーションの担い手を目指して

東薬で出会ったのは、“切実な願い”から生まれた研究

高校生の時に、一人一人の遺伝子に合った化粧品を作りたいと思い、ゲノムや遺伝子、工学や農学などについて幅広く学べる生命科学部を志望しました。大学選びで迷っていた私に、化学の先生が「研究をしたいなら論文も科研費も多い東京薬科大学がいいよ」と勧めてくれたのです。大学見学で、研究に熱心に取り組む先生や学生の姿を見たことが決め手となり、東薬を選びました。入学後は、「ゴジラバクテリア」の研究と開発に取り組むサークル、iGEM TOYAKUで活動しています。ゴジラバクテリアとは、放射線を吸収して、エネルギーとして利用しながら増殖するバクテリアです。放射線物質に汚染された地域で役立ってほしいという先輩たちの願いから生まれた研究に強く惹かれて入部しました。印象的な活動は、社会と科学をつなぐイベント「サイエンスアゴラ」への出展です。研究者だけでなく小学生から大学生、農家の方からも、ゴジラバクテリアへの様々なご意見や提案を頂けたからです。科学者と市民が科学技術について対等に話し、考える「サイエンスコミュニケーション」を体感した貴重な経験になりました。

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アントレプレナー養成プログラムで鍛えられたビジネスモデルの企画力

生命科学部には、学生が選択して受講できる4つのプログラムがあり、起業にも興味がある私が選んだのが、「アントレプレナー養成プログラム」です。コア科目の『生命科学と社会Ⅱ(演習)』では、3日間の集中講義で起業家の方たちからスタートアップに必要な基礎知識を学び、班ごとに企画したビジネスモデルをプレゼンして評価を受けます。私たちの班は、骨折した一人暮らしの高齢者のケアという課題に、AIを活用して新たなつながりを築き、地域全体で孤独な高齢者を支えるサービスを企画しました。講師の指摘に社会の厳しさを感じながらも、商品開発部門の一員になったつもりで、AIモデルやエンジニアの費用、システム開発費などの諸経費や売り上げを試算しました。さらに、医療機関との連携をサービスに加えて最終日のピッチ大会で発表したところ、ベストアワードを受賞できました。ビジネスモデルの企画は初めてでしたが、将来どのような職種に就いても必要なスキルを学べたと感じています。後輩にもぜひ受講してほしい科目の1つです。

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ゴジラバクテリアの着想の原点を訪ねて

サイエンスアゴラでの経験から、私は、ゴジラバクテリアの研究を進めるためにiGEM TOYAKUのメンバーに福島県への訪問を提案しました。福島県庁と東京電力の方のご協力のもと、私たちは2日間かけて福島県双葉町と浪江町、富岡町を訪問しました。震災遺構の小学校や慰霊碑を訪れたほか、放射性物質汚染廃棄物の埋立処分を学ぶ「リプルンふくしま」では専門家の方からは研究へのアドバイスも頂きました。また、東日本大震災・原子力災害伝承館に東京電力の方を招き、事故当時の様子、廃炉に向けた課題などを話していただきました。訪問先では、太陽光、風力、水素エネルギーなどの再生可能エネルギーの運用が進んでいる一方、放射線量が高い帰宅困難地域もあり、一刻も早く放射性物質による環境汚染を解決したいという思いが胸にこみ上げました。今回の訪問で、科学技術の利用にあたり、影響を受ける方たちにあらかじめ話を聞き、危険性や倫理的な課題なども十分検討したうえで進める大切さを強く感じました。

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サイエンスコミュニケーションが活発な未来を作りたい

科学技術がもたらす明るい面だけでなく、リスクや影響についても科学者と市民が対等な立場で対話するサイエンスコミュニケーション。サイエンスコミュニケーションについてさらに学びたいと思った私は、生命科学部の先輩でもある古澤輝由先生の授業、「生命科学と社会Ⅳ(サイエンスコミュニケーション)」を受講しました。古澤先生の授業は、学生一人一人が課題に気づく仕組みにあふれていて、サイエンスコミュニケーションならではの可能性や面白さが詰まっていました。古澤先生から学んだ発想を今後iGEM TOYAKUで開催する中高生向けのイベントで実践し、科学の光と影について考えてもらえるような機会を提供していきたいと考えています。
将来は、アントレプレナー養成プログラムで学んだことを活かして、一人一人に合った治療を提供するオーダーメイド医療の分野で起業したいと考えています。また、サイエンスコミュニケーションを活発に行うコミュニティーを作ることも私の夢です。幅広い世代が、生活に関わる様々な科学について主体的に考えて行動できるように、卒業後もサイエンスコミュニケーションに携わり続けたいと思います。

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