3. これからの薬剤師 ~薬剤師の未来を考えよう~

病院と保険薬局、互いの連携の先に。

下枝
地域包括ケアや在宅医療など、薬剤師を取り巻く環境も大きく変化し続けていますよね。原作第5巻にもそのようなシーンが描かれていて、病院と保険薬局、それぞれが互いに連携していくことが必要だと改めて感じました。
富野
薬薬連携※8の話、薬局薬剤師の小野塚と葵が薬剤師としての将来を考え始めるシーンですね。
下枝
彼らのようにまずは勉強会、飲み会でもいいので、少しづつお互いを知る機会を持って欲しいと常々学生に話すようにしています。そういった交流から、自身の仕事に関するヒントを得ることもできるし、ネットワークも広がっていきます。原作第6巻以降、小野塚さんや葵さんがどのようにお互いを高め合い、尊重し合う存在に変化していくか、非常に楽しみでもあります。この薬薬連携がマンガのストーリーだけでなく、実際に薬剤師の未来を担う若者たちにも広まって欲しい、そう願っています。
富野
実はこのシーン、編集さんから「富野先生の理想を描いてください」と言われたんです。このように連携したり、互いに高め合う関係を築くことは簡単なことではないですが、ただ、薬剤師の目指すべき理想を自分なりに一つ示せたかなと。
  • ※8
    病院薬剤師と院外薬局薬剤師が情報を共有し、患者さんが入院してからも、退院してからも安全で充実した医療を受けることができるよう連携すること。
5巻76-77ページより引用

薬剤師は科学者、強みを生かして。

加藤
強みを持った薬剤師になりたいなと日々勉強に励んでいるのですが、富野先生は原作第5巻のあとがきで薬剤師の“強み”に触れられていますよね?
富野
そうでしたね。そういえば昔、ある人が「医師は生物系の職種で、薬剤師は化学系だ」と話していて、あぁなるほどなと。薬学部で薬理学や有機化学などを学んでいるので、薬剤師は一般的に化学系に強いです。アンサングシンデレラでは臨床現場の薬剤師が描かれていますが、他にも創薬や食品分野、科学捜査官や衛生行政(公務員)でも活躍することができます。薬剤師の強みって何だろう?と改めて考えてみると、他の医療職と違い、化学系をベースに幅広い分野で活躍できることかなって思います。これも薬剤師、薬学部出身としての強みですかね。
下枝
薬学部では化学をはじめ様々な学問を網羅的に学びますので、例えばその薬がヒト、生体にどのような影響を与えるかを化学的に考えられるのは薬剤師だけなのかもしれませんね。
5巻102-103ページより引用

“患者さんの立場で” 答えの無い問い。常に自問自答を。

3巻131ページより引用

3巻168ページより引用

加藤
患者さんの立場に立った医療とよく授業で耳にしますが、とても難しいことのように感じます。
富野
本当に難しいですね……。妊娠で、末期早産で31週目くらいに帝王切開した患者さんがいたんです。母体が持たないからって判断でね。その患者さんがひどく落ち込んでいたから励まそうとしたんです。「妊娠というのはそもそも体の中に異物があることだから、それによって母体がそういう反応を示すっていうことは仕方の無いことなんだよ」と。そうしたら「それを聞いたら逆に泣けてきてしまった」と話されました。患者さんとその状況によって、反応は様々。患者さんの立場になって考えるのは、本当に答えが無いですね。
下枝
医療書を読んだだけでは患者さんの気持ちは分からない。だからこそ、我々医療人は何度も何度も自問自答を繰り返すことが必要ですし、忘れてはならないことですね。

今から考えよう、医療の未来を。そして自身の未来も。

加藤
AIの発達により将来薬剤師は要らなくなるのではないか、人材が溢れて必要なくなるのではないかと心配されることがあります。私はそんな時、自信を持ってこう思っています。「心を理解できるのは唯一、人であるということ」だと。人間だから、一人ひとりの患者さんへ心を寄せることができます。医師に聞けなかったこと、その場で理解できなかったこと、つい忘れてしまったことなどを遠慮せずに相談できる相手として、薬剤師が存在しています。薬剤師を目指す皆さんが、高校生の時から始められる勉強は、家族・友人・先生、周囲の人へ心を寄せて、相手の立場になって考える癖を身につけることだと思います。『患者さんに寄り添う薬剤師になりたい』と思えば思うほど、夢は向こうから近づいて来ると信じています。
下枝
「行き先を知らずして遠くまで行けるものではない。」この言葉は、ドイツの詩人ゲーテが残したとされるものです。皆さんは将来、どの道を歩むにしても、その道を極め世の中で活躍したいと思っていることでしょう。しかし、その道を極め遠くまで羽ばたくためには、行き先を決めなければなりません。実は、薬学部を卒業した後の進路は思いのほか多岐に亘っています。ですから、あなたの自身の行き先をまずはしっかりと見定めてほしいのです。アンサングシンデレラの物語のように、医療現場で活躍する薬剤師のリアルな姿はほとんど知られていません。しかし、そのリアルな姿があなたの目指すべき行き先なら、私がその道案内を喜んでお引き受けしましょう。
富野
「薬剤師っていらなくない?」主人公・葵のこの一言から原作の第1話が始まります。私はこのアンサングシンデレラの物語を通じて、薬剤師がどのように臨床現場で患者さんに寄り添っているのかを伝え、薬剤師の存在意義を示していけたらと思いながら医療原案に携わっています。多くの方にこのアンサングシンデレラをご覧頂き、少しでも「薬剤師に相談してみよう」と思ってくれる方が増えてくれればなと。だからこそ、この記事を読んでいる“未来の薬剤師”の皆さんには、「患者さんにとって身近で頼られる存在になりたい」という気持ちを常に持ち続けて欲しいですね。

4巻172ページより引用

記事監修

薬学部 臨床薬剤学教室

  • 准教授 平田 尚人(写真左)
  • 助教 畔蒜 祐一郎(写真右)

臨床薬剤学教室

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東京薬科大学 総務部広報課