ニュース&トピックス プレスリリース|スギ花粉症の発症に関わる花粉内アジュバントと受容体の解明~スギ花粉症の新たな治療法の開発に期待~

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2020.09.11

プレスリリース

スギ花粉症の発症に関わる花粉内アジュバントと受容体の解明 ~スギ花粉症の新たな治療法の開発に期待~
  • スギ花粉粒に内在する免疫促進物質(アジュバント)及びその免疫受容体が明らかになった。
  • スギ花粉に含まれるアレルゲンタンパク質以外のアレルギー発症に関わる原因分子はこれまで明らかにされていなかったが、今回の研究により、スギ花粉粒内に潜在する多糖成分がアレルゲンに対するIgE抗体産生を促進させることが明らかになり、さらに発症に関わる免疫細胞及び多糖成分に対する受容体の役割も明らかになった。
  • スギ花粉症を根本的に治療するための新たな治療ターゲットになると期待される。

スギ花粉症は日本人の4人に1人が発症する言わば国民病でもあり、その治療は依然として抗ヒスタミン薬などの対処療法に頼っている割合が高く、毎年の治療費負担等が社会的な問題にもなっています。スギ花粉症では花粉に含まれるタンパク質性アレルゲンに対するIgE抗体産生が発症の主な原因となることが知られていますが、抗体産生を促進させるアレルゲン以外の免疫促進物質(アジュバント)については、あまり明確ではありませんでした。

今回、東京薬科大学薬学部免疫学教室安達禎之 准教授菅野峻史 助教、東京慈恵会医科大学自然科学教室 生物学研究室 平塚理恵 准教授らの共同研究グループは、スギ花粉粒に含まれる(1,3)-β-グルカンが免疫細胞の一種「樹状細胞」を活性化し、スギ花粉のアレルゲンに対する抗体産生などの免疫反応を促進することを発見しました。まず、培養細胞を使った実験で、スギ花粉による樹状細胞の活性化には、(1,3)- β-グルカンと結合する受容体「デクチン-1」が関わることが分かりました。また、マウスを使った動物実験では、普通のマウスではスギ花粉を長期間鼻に接種するとスギ花粉アレルゲン特異的なIgE抗体が産生されるのに対し、デクチン-1の遺伝子欠損マウスは、そのIgE抗体が殆ど産生されませんでした。くしゃみの回数もデクチン-1欠損マウスは少なく、アレルゲンに反応してリンパ球から産生されるサイトカイン(インターロイキン-13)も普通のマウスに比べ、デクチン-1欠損マウスは著しく低下しました。これらの結果からアレルゲンに対する抗体産生やサイトカイン産生にはデクチン-1が強く関わることが明らかになりました。さらに、スギ花粉の(1,3)- β-グルカンは水溶性のものと、花粉粒の外壁及び生殖細胞表面に固定されているものがあることが電子顕微鏡での観察から判明し、特に外壁の(1,3)- βグルカンがデクチン-1と結合し、樹状細胞を活性化することが分かりました。

本研究により、スギ花粉に対するアレルギー反応には、デクチン-1を介した樹状細胞の活性化が重要な鍵を握っていること、花粉粒に内在する(1,3)- β-グルカンがアジュバントとしてデクチン-1に作用してアレルゲン特異的な抗体産生を促進させることが明らかになりました。これらの発症メカニズムをさらに解析し適切な対処法が開発されればスギ花粉症の新しい治療法となることが期待されます。

  • 本研究成果は、日本アレルギー学会 英文雑誌Allergology International (https://doi.org/10.1016/j.alit.2020.08.004)に掲載され、 JSA/WAO Joint Congress 2020(第69回日本アレルギー学会学術大会・国際アレルギー学合同会議、917-1020日オンライン開催)で発表されます。

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【取材に関するお問い合わせ先】

東京薬科大学 総務部 広報課
  • 042-676-6711(8:45~17:00 月~金、祝日は除く)
  • kouhouka@toyaku.ac.jp

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東京薬科大学 薬学部 免疫学教室 准教授 安達禎之
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  • adachiyo@toyaku.ac.jp