学部紹介 バイオインフォマティクスの入門資格

バイオインフォマティックス技術者認定試験 合格

名前
徳冨 夏樹 さん
所属
生命科学部3年(取材当時)
出身
暁星国際高等学校

このたび、皆様のご協力もあり、日本バイオインフォマティクス学会(JSBi)主催のバイオインフォマティクス技術者認定試験に無事合格する事ができました。

この試験は「生物学と情報科学の知識をバランス良く身につけた技術者・研究者」の育成を目的としており、計算科学的手法で生命現象を解析・再現するバイオインフォマティクスに興味を持つ学生の需要に応える試験となっています。僕は生命科学と情報科学の境界領域であるバイオインフォマティクスに興味を持ち、また先輩の皆様の中にも受験した方がいらっしゃるという事で、試験を受けてみようと思いました。

試験準備の方法ですが、これはこれから受験する方にはかなり重要な情報となるのではないかと思います。というのは、この試験は平成19年に始まったばかりの比較的新しい試験であり、従って問題の解析が十分に進んでおらず、問題集のような参考書が存在しません。そのため、問題演習ではJSBiのウェブページで公開されている過去問演習が基本となります。しかし、今のところ過去問の解説が各々の問題につき多くても数行程度である事を考えれば、問題の解説を読みながら学習する演習中心型の対策はあまり有効とはいえません。また、試験そのものが発展途上である事もあり、これから出題傾向が大きく変わる事も考えられます。過去問を見る限りでいえば、平成20年から21年の間に起こった顕著な難易度の変化は印象的でした。

これらの状況は、今後、問題集が出版されたり、過去問の解説が充実されたりして解決されると思いますが、その前に受験する場合は、出題範囲に関係する講義を受講しておく事をおすすめします。動画投稿サイトや配信サービスなどでバイオインフォマティクスの講義の動画を見つける事ができ、一部のウェブ教材は登録のみで無料で利用できます。書籍を用いた学習も出題範囲の一部については有効ですが、試験ではプログラムの名称や機能、配列検索サイトのサービスの種類、配列データが含まれるテキストファイルの読み方など、非常に実践的な知識が問われ、これらを扱った日本語の書籍は多くありません。英語で書かれた文献が入手できればそれに越した事はありませんが、それが難しい場合は、わからない事柄について英語でブラウジングしてみましょう。

試験問題は合計80問あり、その四分の一が生命科学、四分の一が情報科学、残りがそれらの境界領域という構成になっています。生命科学の部分ではほとんど全問正解したので、平均的な生命科学部生であれば問題なく得点できると考えられます。細胞生物学を含む生命科学の素養を問う問題と言え、多くの講義が少しずつ役に立ったように感じます。情報科学の部分では基本情報技術者の知識が有効でしたが、やや範囲が異なり、統計処理に重点が置かれている印象でした。

境界領域の部分についてですが、本学部の三年次の選択専門科目の進化系統学では、計算科学的な系統樹の描画法を扱っており、範囲の一部と関連します。また、蛋白質工学では、コンピュータを用いた蛋白質の構造解析の回があり、相同性検索や配列解析ソフトウェアでの解析を実際に行う事ができます。

今回の試験で、僕は、DNA配列の保存性評価における相対エントロピーという概念について興味を持ちました。バイオ系のよく知られた「エントロピー」は熱力学におけるものであり、無秩序さの指標ですが、今回は情報理論におけるそれに近く、配列モチーフの保存度ともいえる情報量の指標でした。情報科学における理論的背景を感じる事ができ、興味深かったです。

試験当日は、国家試験などと比べて受験者が少ない事に驚きました。最も人口が集中していると思われる東京会場でも空いている印象で、受験番号は十進数の3桁に設計されていました。しかし、受験者にはこれからひと仕事しそうな若者が多く、会場からは静かな活気のようなものを感じました。試験官の方は優しく、途中退室の際には「お疲れ様です」と声をかけてくれました。

よく「バイオに数学はいらない」と言われますが、例えば定性的な呈色反応の研究の後に化学量論や速度論が登場したように、あるいはニュートンがよく知られた現象を微分方程式で記述したように、生物学の基本原理が数式で表現される時代が近づいているのかもしれません。事実、蛋白質やRNAの立体構造、DNAの系統解析などで様々なモデル化が行われています。私たちは、生命科学が定性的・帰納的なものから、定量的・演繹的なものに変遷する過渡期にいるのかもしれません。

この試験を受験し合格した経験を生かし、生命科学・情報科学における研究能力を高めていきたいと思いました。