学科紹介 環境化学物質

我々を取り巻く環境中には様々な化学物質が存在しており、そのような化学物質を総称して環境化学物質と呼びます。人は普段から意図する・意図しないに関わらず、様々な化学物質に触れて、場合によっては化学物質を体内に摂取して生活していることから、それらの曝露によってもたらされる健康リスクには注意を払う必要があります。

環境化学物質は大きく分けて、人為的なものと、天然由来のものに分類されます。人為的なものだと、例えば、プラスチック、衣料品、塗料、合成洗剤、殺虫剤、医薬品、化粧品、農薬などが挙げられます。我々の身の回りには生活を豊かにしてくれる数多くの便利な製品であふれていますが、これらはすべて様々な化学物質を利用して作られており、化学物質は私たちの日々の生活に欠かせないものとなっています。しかしながら、使い方を間違えると環境を経由してわたしたちの健康や野生の動植物に悪い影響を与えてしまう危険性があります。また、便利な製品を生み出す過程や、それが分解される過程において、場合によっては、非意図的な副産物が生み出されて環境を汚染する可能性もあり、気をつける必要があるのは最終製品だけではありません。一方、天然由来の化学物質としては、空気、水、食品、土壌などが挙げられ、生命の維持に必要不可欠な栄養素も含めて、これらはすべて様々な化学物質の複合体です。人工物と比べて天然物は安全であるという認識を持つ方もいるかもしれませんが、天然物だからすべて安全という訳ではなく、自然界には毒キノコやトリカブトなどの有毒な植物がたくさんありますし、人体に有害な作用をもたらす金属元素なども天然中には普遍的に存在しています。

環境化学物質という言葉は”有害”というイメージを与えがちではありますが、大事なのはその量です。中世スイスの医師パラケルススはその昔、「全てのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。量こそが毒であるか、そうでないかを決める」という格言を残しました。環境化学物質のリスクを正しく理解する上においても、量の概念は欠かすことのできない要素です。また、化学物質の健康リスクを考慮する上では、化学物質が生体に侵入した際にどのような生体影響を与えるのかを理解する必要があります。最近では、生命は自身に有害な作用をもたらす化学物質に対して、無防備な状態でいる訳ではなく、様々な生体防御システムを有していることも分かってきており、生命が環境に適応して生きているメカニズムについて、現在も研究が進められています。