ニュース&トピックス 環境応用植物学研究室の卒業生、平井一帆さん(博士)、能城美樹さん(学士)、佐藤陽亮さん(学士)達の論文が雑誌Scientific Reportsに受理されました。
- 生命科学部
- 研究活動
- 応用生命科学科
2019.12.16
論文タイトル
Contribution of protein synthesis depression to poly-β-hydroxybutyrate accumulation in Synechocystis sp. PCC 6803 under nutrient-starved conditions.
著者
Kazuho Hirai, Miki Nojo, Yosuke Sato, Mikio Tsuzuki, and Norihiro Sato
雑誌
Scientific Reports
近年、海洋のマイクロプラスチック汚染を含め、プラスチックのゴミが環境汚染や生態系の破壊を引き起こすとして、地球規模での大きな社会問題となっています。これは石油を原料として生産されるプラスチックが、自然環境下では分解されにくいことによります。このため、石油由来のプラスチックの代替として、生物が分解できる生分解性プラスチックを細菌に大量に生産させるための研究が世界レベルで進んでいます。細菌は一般に、環境ストレス条件下、代謝が滞るため余剰となる炭素を貯蔵炭素化合物として細胞内に蓄積します。このうち脂質としては多くの場合、生分解性プラスチックであるポリヒドロキシブチル酸(poly-β-hydroxybutyrate、PHB)が合成・貯蔵されます。シアノバクテリア由来のPHBであれば、プラスチックとしての使用後、細菌にCO2へと分解させ、それをシアノバクテリアに吸収させ、光合成を通して再びPHBを合成させること、すなわち、CO2ゼロエミッションのサイクル系の確立が可能になります。これは、現在、地球が抱える温暖化問題を解決する上でも重要です。
本研究では、PHB生産能を示すシアノバクテリアSynechocystisの野生株とアミノ酸合成欠損株を利用して、種々の栄養欠乏条件下、そのPHB生産を支える代謝機構を解析しました。その結果、これまでに知られていた窒素(N)やリン(P)の各栄養素に加え、新たに硫黄(S)についてもその欠乏がPHB蓄積を誘導すること、そして、欠乏する栄養素の種類によって、PHBの蓄積量が異なることが認められました(図1a)。さらに、この欠乏栄養素種に依存したPHB蓄積量が、本来、細胞乾重量の60%を占めるタンパク質の合成がどの程度、強く抑制されるのか、同時に、それにより余剰となった炭素代謝流がPHB合成系へ流入するため、PHB合成系遺伝子の発現がどの程度、強く誘導されるのかで決まることが示されました(図1b)。例えば、N欠乏下、タンパク質合成は顕著に抑えられ、かつPHB合成系遺伝子が最も高レベルで発現誘導されるため、PHBの蓄積量はPやSの各欠乏下での蓄積量を上回り、最大になると理解されました。これらの結果は今後、シアノバクテリアにおけるPHB蓄積の代謝機構やその生理学的意義を解明する基盤になります。将来的には、このような知見をもとにシアノバクテリアを用いたPHBの大量生産系を構築したいと考えています。