ニュース&トピックス 分子生命科学科 教員インタビュー第5回 森本高子先生

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2020.09.10

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分子生命科学科 教員インタビュー第5回 森本 高子 先生
インタビュワー 清水 勇希(細胞情報科学研究室 4年)

本インタビューはZoomにより、オンラインで行われました (写真はイメージです)。

清水:本日はお話をする機会をいただきまして、ありがとうございます
今日は、先生の研究との出会いや研究内容についてお聞きしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします

森本:こちらこそ、よろしくお願いします。


清水くん-2.jpg研究との出会い

清水:早速ですが、学生の頃はどんな生徒だったか教えてください?

森本:身体の仕組みや生き物のこと、特に、百科事典の人体解剖の図なんか、好きでよく見ていたので、生物学・医学は勉強したいと、ずっと思っていました。高校も生物部ですよ。

清水:好奇心旺盛だったんですね。では、神経科学と出会ったきっかけは何ですか?

森本:3年生の授業で、細胞シグナル伝達の講義を聴いて、細胞が細胞に何かシグナルで情報を伝える、って、とても面白いなあ、と思いました。情報伝達の究極の仕組みは、神経科学・脳科学だと思いました。大学院では、神経科学そのものではなかったですが、血小板を使って、セロトニン分泌機構を研究しました。非神経細胞ですが、神経細胞と非常に良く似た分泌の仕組みを持っていることを発見しました。

清水:元々、脳、神経に興味があったんですね。その後の進路について伺ってもよいですか?


森本先生講義室.jpgコロンビアでの研究

森本:そのあと、大学院を卒業する時に、脳科学を研究するには、神経活動を測定することが必要だと強く思い、電気生理学を学べる所でポスドク(生理学研究所・コロンビア大学)として研究しました。この間に、シナプス伝達機構・シナプス可塑性機構など、神経科学研究の最前線に触れることが出来ました。

清水:海外で目的を達成されたんですね、日本とコロンビア大学の違いはどうでしたか?

森本:研究や生活についてはそれほど変わりませんね。大きな違いはみんながアグレッシブでディスカッションやおしゃべりが好きなところです。

清水:大学院生からポスドクになる時にテーマを変えたことに抵抗はありましたか?

森本:情報伝達する機構に興味があって、神経伝達の理解という点ではテーマが変わったとは思っていないんですよね、シグナル伝達の究極の形が神経細胞の機能だと思っています。ショウジョウバエを始めた時も、シナプス形成を生体内で観察するのに、ショウジョウバエがよかったんです。


清水くん-2.jpg森本先生の研究について

清水:では、ショウジョウバエを使った現在の研究について教えていただけますか?

森本:今色々やっているように見えるかも知れないのですが、ひと言で言うと、「脳(こころ)の状態による行動制御機構の解明」です。

清水:これまでの研究と違うところはなんですか?

森本:これまでの脳科学研究では、実験室で与えられる明確な刺激に対する神経機構を解明する研究が進みました。でも、私たちが普段接しているのは、明確な刺激だけでなく、複合的であいまいな刺激にあふれています。それらを受け取り、どのように脳は処理をして、行動を決定し実行していくのか。また、外部刺激だけでなく、我々の脳の状態、つまり、感情(情動)、気分、注意、やる気、等によって、行動は大きく左右されます。同じ刺激を受け取っても、このような、こころとも呼べるような脳の状態によって、行動が異なる事もあります。その様な、脳(こころ)による、行動制御機構を明らかにする研究と、それが壊れてしまったと考えられる精神疾患に関わる研究をしています。

清水:具体的にはどのような実験をされているんですか?

森本:不明瞭な視覚刺激に対する視運動反応という反応に、ドーパミンが関与することを見出したので、その機構を引き続き調べています。また、統合失調症のテストにも用いられるプレパルスインヒビションという実験系を確立したので、それを用いた薬の研究をしたいと思っています。また、最近、アロマ物質が記憶に作用しているか、という研究も行っています。 *プレパルスインヒビション: プレパルス (前刺激) があると本刺激に対する反応が弱まる現象、統合失調症の人ではプレパルスインヒビションが弱まる。

清水:ショウジョウバエはなぜ脳研究に適しているんですか?

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森本:ショウジョウバエと出会ったのは、前職(助手)になってからです。それまで、培養細胞を使った研究が主だったのですが、生体内での機能を見る事ができることに、非常に魅力を感じました。今は、階層を繋ぐ研究を目差しています。階層とは、分子、細胞、神経細胞ネットワーク、個体、という各階層レベルのことです。私が研究している行動制御機構では、脳がどのように指令して個体がその行動を取るか、ということを知るためには、単に1つの細胞や脳部位が関わるだけではなく、様々な脳部位が関わっています。ですから、1つの細胞の機能だけを見るのではなく、他との関わりを見る、ネットワークで考える、といった事が重要です。そのためには、より単純な脳で、でも、複雑な機能も持つショウジョウバエが有利なのではないかと考えています。

清水:森本先生が行なっている研究のオリジナリティーを教えてください。

森本:私だけのオリジナル、というのは、なかなか少ないですが、階層を繋ぐ研究を大事に考え、それをショウジョウバエで行い、明確な刺激の処理ではなく、複雑でゆらぐ環境からの刺激を脳がどのように処理をしているか、それはこころに通じるのではないか、と考えて研究しているところでしょうか。


森本先生BBQ.jpg脳科学の魅力

清水:脳科学は難しいイメージがありますが、研究していく上で大事にされていることはありますか?

森本: そうですね。多分、何が分かったら、分かったことになるのか、よくわからない所が難しいイメージを与えているのだと思います。つまり、脳機能の解明を脳が考えているので、自ずと、限界があります。だから、余り、難しく考えず、面白いと思えるかどうか、という点を大事にする、と、いつもそこに立ち戻りやっています

清水:森本先生のグループのホームページを拝見したところ、様々な手法を組み合わせて実験を行なっていることを知りました。実験系を組み立てる際どのようにして考えを練るのでしょうか?

森本: うーん。全く0から作ったというのは余りないですね。ただ、調べたい目標は明確にあって、そのために使えるものはないかなあ、と、いつも頭の片隅にあって、そして、論文を読んだり、色々考えたりしたときに、あ、これ使えるかも、と思いついて、形にしていくことが多いのでしょうか。一番、注意しているのは、検出感度を如何に高められるか、です。今は行動実験が多いので、生き物相手なので、この点には中々苦労しますね。


将来の夢、学生の皆さんへのエール

清水:今後研究を進めていく上で夢はありますか?

森本:20年くらい前は、自分で取った蛋白質に名前をつけるのが夢でしたが、出来ないうちに、1つの分子の機能が分かっても何も分かったことにならないと思ってしまいました。そして、今、脳科学では、実験だけで出来ることの限界が見えてきています。今のうちに、面白い現象をたくさん見つけて、たくさん実験データを取得して、退職したら、数理論研究をして、それらのデータから生物共通の原理を見出すというのが、今の夢です。でも、頭がついていかないかも知れないので、今のうちからできればやりたいと思っています。

清水:すごく、脳科学好きが伝わってきます。学生に向けて一言お願いします。

森本:これでいいや、と思わずに、常に挑戦し続ける心を持ち続けてください。自分を信じて、前進してください。努力なしに出来る人はひとりもいません。みんな同じです。みんなの前には可能性が無限に広がっているので、成長を楽しみにしています。

清水:最後に東京薬科大学の良いところについて聞きたいと思います。

森本:実験、研究がやりたい人にはとっても良いところ、志がありやりたいことがあれば聞いてくれる先生も多いと思うし、皆優しいです。学生さんも素直な良い子ばかりだと思います。


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