ニュース&トピックス 環境生物学研究室の「マウス嗅神経細胞の分化に関与するストレス応答因子の標的遺伝子の同定」に関する論文がCell and Tissue Research誌に掲載されました。

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2024.04.15

論文情報

タイトル“Nescient helix‑loop‑helix 1 (Nhlh1) is a novel activating transcription factor 5 (ATF5) target gene in olfactory and vomeronasal sensory neurons in mice“

 

当研究室のストレス応答因子による細胞分化研究グループ(論文筆頭著者は修士課程を卒業した石井千陽さん)は、マウスの嗅覚器において匂い分子やフェロモン分子を認識する神経細胞の細胞分化に働く転写因子ATF5Activating transcription factor 5)の標的遺伝子を同定・解析し、その成果を、本年(2024年)4月、英文誌(Cell and Tissue Research)に発表しました。この成果は、ストレス応答による嗅神経細胞の細胞分化の機序解明に繋がると期待されます。 

研究の背景

私達ヒトでは、鼻腔の奥の嗅上皮に存在する嗅神経細胞が匂い分子を受容して、匂い情報を脳に伝えます。マウスには、さらに鼻腔の先端にある鋤鼻器(ヒトでは退化してます)に鋤鼻細胞と呼ばれる神経細胞が、フェロモン分子を受容し脳に情報伝達します。これら嗅神経細胞と鋤鼻細胞ができるには、ストレス応答によって活性化される転写因子ATF5が必要であることが分かってきましたが、ATF5がどの遺伝子の転写をオン・オフするのかについては不明でした。当研究室が開発した、Hemagglutinin(HA)抗体でATF5検出を可能とするATF5-HAタグノックインマウスを使って、この研究課題に取り組みました。

成果のポイント

1 転写因子ATF5が嗅覚器のゲノムDNAに結合する領域を明らかにするため、ATF5-HAタグノックインマウスの嗅覚器(嗅上皮、鋤鼻器)より細胞核を調整し、クロマチン免疫沈降実験を行ったところ、ヘリックスループヘリックス型転写因子であるNhlh1Nescient helix-loop-helix 1)遺伝子の発現調節領域にATF5が結合していることが観察されました。ATF5遺伝子を欠損したマウス嗅覚器では、Nhlh1 mRNA発現量は減少していました。これらの結果から、Nhlh1は、ATF5によってその発現がオンに調節される標的遺伝子であることが分かりました。 

2 ATF5が結合するNhlh1遺伝子の発現調節領域には、嗅神経細胞の細胞分化を制御することが知られた転写因子であるLhx2LIM homeobox 2)も結合していることをクロマチン免疫沈降実験により明らかにしました。ATF5 Lhx2は、嗅神経細胞と鋤鼻細胞の細胞核内において共局在していることが観察されました。 

考察と今後の展望

以上の結果から、ATF5は細胞核内で転写因子Lhx2 と共にNhlh1遺伝子の発現を活性化することにより、嗅神経細胞と鋤鼻細胞の細胞分化を進めている可能性が示唆されました。   

Nhlh1遺伝子は、広く神経細胞に発現し神経突起の伸長作用を持つことから、ストレス応答で活性化したATF5によるNhlh1発現により嗅神経細胞と鋤鼻細胞の軸索伸長が促進されることが予想されます。今回の成果から、ストレス応答による嗅神経細胞と鋤鼻細胞の細胞分化の機序を転写因子の協調的な働きから明らかにできることが期待されます。

論文紹介中野_図1.jpg                                                            

(図1)マウス嗅上皮の嗅神経細胞の細胞核(DNA:青色)に発現する転写因子ATF5(赤色)とLhx2(緑色)の免疫組織化学染色像。

一部の嗅神経細胞ではATF5Lhx2が共に発現していること(黄色)が観察された。

論文紹介中野_図2.jpg

                        (図2)今回の成果から予想されるモデル図

Doi:  https://doi.org/10.1007/s00441-024-03871-0

著者: Chiharu Ishii, Haruo Nakano, Riko Higashiseto, Yusaku Ooki, Mariko Umemura, Shigeru Takahashi, and Yuji Takahashi

掲載誌: Cell and Tissue Research (2024) 396:85–94

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東京薬科大学 生命科学事務課