久保 勇貴

協和キリン株式会社 研究開発本部 開発ユニット 臨床開発センター 臨床開発3グループ

日本大学三島高等学校 出身

大学で研究してきたことや、幼いころから抱いていた想いが、現在の仕事に繋がっています。

臨床開発職ってどんな仕事?

研究職の方々が発見した新薬の“タネ”が医薬品としての承認を得られるよう、臨床試験を計画・実施する。それが私たち臨床開発職の仕事です。

新薬の承認に至るまでには、非常に長い年月と多額のコスト、たくさんの人の試行錯誤がちりばめられています。最終的に医薬品として承認を受けることができる薬は、最初の段階でできる候補成分3万個のうち1つとも言われ、「最低で10年、数百億円」かかることも多々あります。

一般的な新薬開発の全体像は以下の通りです。
①新薬の候補成分の調査・合成
②スクリーニング
③非臨床試験(物質が生体の中でどのように作用するか、生体に悪い作用を及ぼさないかなど、細胞や動物を用いて評価を行う。)
④臨床試験(Phase1:人体で薬がどのように作用し、分解・排泄されるかを確認する。Phase2:少数の患者さんに協力してもらい、薬の安全性や有効性、望ましいと考えられる用法・用量を調査する。Phase3:多くの患者さんに薬を使ってもらい、プラセボや既存薬等と比較した安全性や有効性を調査する。)
⑤承認申請
⑥承認・発売

上記の④臨床試験を行うために、製薬会社は臨床試験の計画書を作成します。その後、医療機関に臨床試験の実施を依頼し、治験薬の安全性・有効性を確認・評価していただきます。私たち臨床開発職の主業務は、新薬開発の将来を大きく左右するこの部分です。

私は入社後の3年間で、3つのプロジェクトに携わりました。直近では、非臨床試験(上記のまでのフロー)から上がってきたばかりである新薬のタネ”に関するPhase1試験の計画・実施に携わっています。具体的には、どのような疾患・患者さんを対象とし、どのようなデザインの試験を組むことで成功に近づけるか、そしていち早く新薬として開発することができるか、臨床現場の先生方、社内他部署、チームのメンバー、時にはPMDA等、非常に多岐にわたる社内外の人々と何度も協議を重ねて、チームとして一つの試験を作り上げ、実施しています。

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既存治療では救うことのできなかった多くの患者さんを救いたい

この仕事を目指した最も大きな要因は、5年次の実務実習でした。病院実習中、ある患者さんから帯状疱疹によるしびれと痛みがひどいとの訴えがありました。そこで、医師や薬剤師で協議を重ねた結果、ある薬剤を使って治療していくことになりました。しかし、既存の薬の中から最適と考えられた薬剤を使ってもなお、患者さんのしびれと痛みは全く良くならず、むしろ悪化していき、寝たきりになってしまったことを目の当たりにしました。この経験から、患者さん一人ひとりに現状最適な治療を模索するよりも、治療の選択肢そのものを増やすことで、既存治療が奏功せず苦しんでいるより多くの患者さんに貢献したいと考えるようになりました。

また、就職活動中、協和キリンの説明会にて、ある薬剤の開発秘話を聞きました。
その薬剤は、ある疾患に対する有効性は良好である一方で、海外にて安全性に懸念が生じたことから一時試験が中断してしまいました。ただ、その疾患領域に既存治療は存在せず、医療現場からは新薬が待ち望まれていました。そこで、試験再開に向け、臨床開発職が主体となって原因を分析し、安全性情報の取り扱いを専門とする他部署とも連携しながら、より安全性に配慮した試験デザインを計画しました。その結果、医師の方々からの納得も得られ、試験再開に動き出すことができたということでした。これはまさに、臨床開発職の力量、そしてチームワークによって、新薬開発に向けて大きく一歩前進できる具体例だと感じます。

このように、困難が生じたとしても、開発をあきらめずにチームのメンバーと知恵を絞り出しながら一つ一つ前に進め、最終的に新薬としての承認を受けることができれば、既存治療では救うことのできなかった非常に多くの患者さんを救うことができます。また、新薬開発を行う上では、必ずしも正解の選択肢が存在するとは限りません。その中で、メンバーと意見を出し合いながら、その状況に応じた最適解を見つけていくというように、チームで働くというのも臨床開発のやりがいの一つであると感じています。

大学で研究してきたことや、幼いころから抱いていた想いが現在に繋がっている

大学生の頃は、皮膚関連の研究室に所属しており、講義が終わったら研究室に向かい、細胞やマウスを用いた研究に打ち込んでいました。私自身皮膚トラブルで悩んだ経験があり、その要因や解決策を知りたいという想いからこの研究室への配属を希望しました。そして現在、何かの縁でしょうか、皮膚トラブルが発生する疾患を対象とした新薬開発に携わっています。大学で学んできたことや、幼いころから抱いていた想いが現在に繋がっており、今の仕事にとてもやりがいを感じています。

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大学での学びについて。先輩からのメッセージ

大学では、研究活動や日々の勉強を通じて、なぜこうなるのか、どうしたら良好な結果が出るのかと、目標達成や課題解決に向けて必要なものを、頭を使って考えることを身に付けられたと感じています。現在の仕事では、あらゆるステークホルダーに対して説明・交渉する機会が多く、相手の理解・納得を得る説明が必要です。その際は、大学で身につけた課題解決や目標達成に向けて考え抜くマインドが非常に役立っています。

私一個人の経験のみではありますが、このように大学では知識以外にも多くの学びを得ることができます。また、私自身薬剤師になるつもりで入学しましたが、気づけば製薬企業で会社員をしているように、様々な業界で働いている先輩方がたくさんいます。大学生活では視野を広く持って、楽しいと思えることや気になることに触れてみて、もし興味を持ったことが薬学関係でなければ、全く別の道に進むことも素敵な選択だと思います。

後輩の皆さんには、一生懸命薬学を学ぶことが大切と私の立場上お伝えする必要がありますが、学生生活を送る中では、勉強や研究よりも大切なこともたくさんあると思います。そのため、もちろんしっかりと勉強もこなしながら、同じくらい大学生活を目一杯楽しんでください!

私にとって、東京薬科大学とは

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