ニュース&トピックス 有機蛍光色素の物性を変える新しい置換基を発見~生命現象の可視化を実現する蛍光色素の開発へ~|プレスリリース

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2021.02.22

プレスリリース

有機蛍光色素の物性を変える新しい置換基を発見~生命現象の可視化を実現する蛍光色素の開発へ~

東京薬科大学薬学部薬品製造学教室の矢内 光准教授,松本隆司教授,同生体分析化学教室の柳田顕郎教授らの共同研究グループは,水に溶けない有機蛍光色素を水溶化し,同時にその親油性をも改善させる新しいイオン性置換基の開発に成功いたしました。この成果は,国際的な専門雑誌『Angewandte Chemie International Edition』に掲載されました。

  • 水に溶けない有機蛍光色素を水溶化するための新しいイオン性置換基が開発された。
  • この置換基を導入すると,水溶性が向上するだけでなく,親油性(油-水二相系で油相へ移行する性質)も向上した。
  • 水溶性と親油性は二律背反の関係にある物性で,両者を共に向上させる置換基はこれまでに知られていない。そのため,有機色素の利用法を飛躍的に拡大させることが期待される。

本研究成果

有機蛍光色素は,細胞小器官やタンパク質の局在といった生命現象にまつわる組織や分子を可視化するツールであり,現代の薬学・生命科学研究では不可欠の存在です。しかしながら,有機蛍光色素の多くは,水にはまったく溶けません。優れた光物性が知られていながらも,(水に溶けないがゆえに)細胞実験系などの水中では利用できないものが数多くあります。そのため,有機蛍光色素の「水溶化」に関する研究が内外で盛んに行われてきました。
今回,東京薬科大学薬学部薬品製造学教室の矢内 光准教授,松本隆司教授,同生体分析化学教室の柳田顕郎教授らの共同研究グループは,既存の有機蛍光色素1の水溶化に取り組み,多数のフッ素原子によって安定化されたカルボアニオン性置換基で化学修飾する方法の開発に成功しました(図1)。

0218矢内_図1-900.jpg 図1. カルボアニオン性置換基によって様々な有機蛍光色素の構造修飾を行う方法を開発

未修飾色素1の水に対する溶解度は1 mg/L未満であり,少量のリン酸緩衝液を加えても色素の結晶が水面に浮かぶのみでした(図2A)。一方,カルボアニオン修飾色素2の水に対する溶解度は1万倍以上も高く,水溶液を容易に調製できることを見いだしました(図2B)。また,両化合物のlog D値(オクタン-1-オール/pH 7.4リン酸緩衝液間での分配係数Dの対数)を測定し,驚くべきことに,カルボアニオン修飾色素2の親油性が未修飾体1よりも高まっていることを明らかにしました(図2,CとD)。こうしたカルボアニオン性置換基による水溶性の改善と親油性の向上は,他の有機蛍光色素においても認められました。なお,本置換基の導入に伴う蛍光物性の変化はきわめて軽微でした。

0218矢内_図2-900.jpg図2. (A) 未修飾色素1をpH 7.4リン酸緩衝液に加えた様子。赤い色素結晶が水面に浮いており,液体に着色はみられない。(B) カルボアニオン修飾色素2をpH 7.4リン酸緩衝液に溶かした様子。(C) 油-水二相系における未修飾色素1の分配。見やすさのためにアセトニトリルを加えている。(D) 同二相系におけるカルボアニオン修飾色素2の分配。水相に着色はみられない。

一般に,水に溶ける化合物は有機溶媒などの油には溶けにくく,化合物の水溶性の向上に伴って親油性が低下する傾向も膨大な有機化合物の物性データから示されています。本成果は,有機蛍光色素の光物性を損なうことなしに,水溶性と親油性という,一見,相反する二つの巨視的な物性を制御する新しい方法論であり,その応用によって生命現象の解明に資する新たな色素の開発に繋がることが期待されます。

この成果は,国際的な専門雑誌『Angewandte Chemie International Edition』オンライン版(https://doi.org/10.1002/anie.202012764)に121日付けで掲載されました。

研究体制

本研究は,日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(C) 20K06947の助成により行われました。

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