ニュース&トピックス 東京薬科大学のCOVID-19治療薬研究|SARSコロナウイルスプロテアーゼ阻害剤YH-53の新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を確認|プレスリリース

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2020.07.31

プレスリリース

報道機関各位

東京薬科大学のCOVID-19治療薬研究
SARSコロナウイルスプロテアーゼ阻害剤YH-53の新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を確認
【 概 要 】
本学薬学部・林良雄教授および今野翔助教らのグループ(薬品化学教室)は、群馬大学医学部・神谷亘教授との共同研究により、2013年に開発した重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)の3CLプロテアーゼに対する阻害剤YH-53が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖を強く抑制することを確認しました。
昨年末に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、多くの国でパンデミックを引き起こし、現時点で世界の感染者数は約1400万人、死者数は約60万人と甚大な災禍をもたらし、さらに感染が拡大しています。その克服には、SARS-CoV-2を標的とした治療薬の開発が不可避かつ急務であります。
ウイルスプロテアーゼ阻害剤は、AIDSやC型肝炎の特効薬として知られています。SARS-CoV-2もメインプロテアーゼ(M-Pro)とも呼ばれる3CLプロテアーゼ(3CL-Pro)を独自に有しております。感染細胞内でのウイルス増殖に必須なため、当該酵素を標的とする選択的阻害剤は明確な作用メカニズムに基づく代表的なCOVID-19治療薬の候補と考えられます。また、ウイルスの増殖抑制によりCOVID-19の重症化を軽減できる可能性もあります。
林教授らのグループは、世界におけるSARS-CoV 3CL-Pro阻害剤の数少ない研究グループの一つです。2002年のSARS発生を機に、長期に渡りSARS-CoV 3CL-Pro阻害剤の創製研究を行ってきました。最近、他機関からSARS-CoVとSARS-CoV-2における3CL-Proの相同性が極めて高い(99%)ことが報告され、SARS-CoV-2に対する彼らの酵素阻害剤の奏功が期待されていましたが、今般、神谷教授によるSARS-CoV-2に対する抗ウイルス試験から、YH-531)を筆頭に複数の阻害剤が良好な抗ウイルス効果を示すことを確認できました。これらの結果は、なるべく早い段階で学術論文として発表する予定です。

YH-53.png

本SARS-CoV-2 3CL-Pro阻害剤研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和2年度 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬開発」に係る公募(2次公募)における採択課題「肺胞細胞増殖および重症化抑制を目指指した超多重ガイドRNA発現ゲノム編集アデノベクターとプロテアーゼ阻害剤の併用による抗COVID-19療法の戦略的開発」において(7月30日群馬大学より報道機関へ発表済)、代表機関である群馬大学(代表研究者:神谷亘教授)の下、分担研究課題として実施されています。東京薬科大学では、薬学部・林教授ならびに生命科学部・小島正樹教授(コンピュータ分子設計)が分担研究者として参画しており、当該分担研究では、YH-53を基盤としてSARS-CoV-2 3CL-Proの選択的新規阻害剤のさらなる創製研究を進めてまいります。YH-53については、良好な抗SARS-CoV-2活性が確認されたことから、今後、動物での感染抑制試験などを実施し、医薬としての有効性・安全性を追求してまいります。また、本件に関しては、共同研究を行っていただける研究機関を求めております。さらにYH-53の化学合成法(供給)を確立していることから、東京薬科大学では希望する研究グループへのYH-53の提供を計画しています。量に限りはございますが、YH-53を用いたSARS-CoV-2の病態や機能解明研究、3CL-Proの構造生物学研究、さらにCOVID-19に対するプロテアーゼ阻害剤戦略の有効性検証に役立てていただきたいと考えています。これらによりCOVID-19治療薬の研究開発が加速することを願っています。ご興味をお持ちの方は、下記へお問い合わせ下さい。

YH-53 は、掲示の化学構造を持つ低分子化合物で、2013 年に SARS-CoV 3CL-Pro を標的に創製された強力かつ選択的な酵素阻害剤です。最近の COVID-19 治療候補薬に関する総説 2)にも取り上げられております。YH53 は SARS-CoV-2 の 3CL-Pro を低濃度で強力に阻害し 3)、さらに今般の神谷教授による細胞における SARSCoV-2 の感染実験から、強力な抗ウイルス作用を示すことが明らかになりました。一方、その細胞毒性が低いことから、YH-53 は COVID-19 治療薬の有望な開発候補と考えられます。

1)Thanigaimalai, P., Konno, S., Hayashi, Y., et al., Eur. J. Med. Chem., 2013, 68, 372-384. 2)Ghosh, A. K., et al., ChemMedChem, 2020, 15, 907–932. 3)SARS-CoV-2 3CLPro に対する酵素阻害活性は、ボン大学(ドイツ)Christa E. Müller 教授との共同研究による

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東京薬科大学 広報課
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東京薬科大学 薬学部 薬品化学教室 教授 林 良雄