学科紹介 タンパク質の実用化とタンパク質工学

人間は社会を作って生活しています。それと同じように、生き物の体をつくる最小単位である細胞の中にも社会があり、様々な生体分子がそれぞれの役割を果たしながら、生命活動の維持に努めています。細胞内の社会において特に重要な役割を果たしているのがタンパク質です。実際、タンパク質は水分子の次に細胞内に含まれる割合が多い分子です。人間社会では、多くの人が様々な職に就いて、それぞれが必要な仕事をしています。同様に、細胞内においても数千~10万種以上のタンパク質が、それぞれの役目を果たしています。そして、タンパク質が細胞内で果たしている役割の中には、人間社会においても役立ちそうなものも多くあります。実際に、タンパク質を細胞の外に出して、人間社会に役立てて使用することを「タンパク質の実用化」と呼びます。例えば、ある種の微生物は、難分解性の有害物質を分解する能力を持っています。この微生物から、有害物質の分解に関わるタンパク質を取りだし、環境浄化や下水処理に使用するのです。既に実用化されているタンパク質もいくつかあります。身近な例では洗濯洗剤が挙げられます。テレビのコマーシャルで「酵素パワー」という言葉を聞いたことがあると思いますが、酵素は触媒能を持ったタンパク質のことです。洗剤の主成分は界面活性剤ですが、界面活性剤だけではなかなか汚れを落とせません。そこで、洗剤にタンパク質分解酵素や脂質分解酵素などを混ぜた酵素入り洗剤が開発されたのです。また、タンパク質の一部を改変することで機能を高め、量産することも試みられています。特に、タンパク質の実用化においてしばしば問題となるのが、安定性の悪さに起因する寿命の短さですが、現在では様々な方法により、タンパク質の安定性を高めることが可能となっています。このように、タンパク質の性質を都合よく改変してしまう技術のことを「タンパク質工学」と呼びます。タンパク質工学を発展させ、タンパク質の実用化を促進することが、省エネルギーで環境にやさしい社会をつくるための鍵となるかもしれません。