学科紹介 バクテリオファージの利用

私たちヒトはウイルスに感染すると病気になることがあります。バクテリアに感染するウイルスも存在し、それを特別にバクテリオファージまたは単にファージと呼びます。ファージとは「食べる」という意味で、バクテリアを食べることから名付けられました。ファージが1910年代に見いだされた当初、有害なバクテリアを殺すための物質として、その利用に大きな期待が寄せられました。しかし、抗生物質が後に発見・臨床応用されるようになると、一部の東欧諸国を除いてファージが抗菌剤として顧みられることはありませんでした。現在では抗生物質耐性菌の出現が問題視されるようになり、ファージの抗菌剤としての利用が改めて注目されています。これをファージセラピーといいます。ヒトだけでなく、動植物をバクテリアから守るための抗菌剤としても注目され、特に畜産業・水産業での利用を目指した研究が活発に行われています。さらに、アメリカ食品医薬品局(FDA)は食品添加物としてファージの利用を一部認可しています。
ファージの研究は遺伝学や遺伝子工学の発展にも大きく寄与してきました。例えば、DNAを連結するための必須の試薬となっているリガーゼという酵素は、T4ファージが大腸菌に感染する際に作られます。またファージディスプレイという遺伝子工学の技術を用いて、天然には存在しない有用なペプチドやタンパク質を創り出すことも行われています。極限環境に生息するバクテリア、たとえば好熱菌に感染するファージも知られています。好熱菌ファージは研究の歴史が浅いので機能がよくわからない遺伝子が多いのですが、高温でも丈夫で、かつ特殊な活性を持つ酵素が好熱菌ファージから発見されれば、画期的な技術開発につながるかもしれません。

ファージの増殖 (P1ファージの場合):バクテリアに形質導入を引き起こすこともある。