学科紹介 光合成の二酸化炭素固定 -C3回路とC4回路-

光合成の炭素代謝は、カリフォルニア大のバークレイ校でM. CalvinとA.A. Benson、そして、J.A. Basshamらが明らかにしました。彼らは、微細藻類であるセネデスムス(Scenedesmus)やクロレラ(Chlorella)の光合成経路を14Cという放射性同位元素とペーパークロマトグラフィーという分析技術を用いて解明しました。その結果、5炭糖のリン酸化合物であるリブロース1,5-二リン酸(RuBPと略)にCO2が結合して、2分子の3炭糖リン酸グリセロアルデヒド3-リン酸(3PGと略)ができること、炭素数が4~7のリン酸化合物を中間代謝産物(代謝経路の中で作られる化合物)となって、また、RuBPにもどることが明らかになりました。この回路が回転しながら、葉緑体の中でデンプンが作られ、一方、一部が細胞質に出てショ糖が作られることが明らかになっています。

この回路は、「カルビン−ベンソン回路」とよばれていますが、短くして「カルビン回路」という人もいます。実は、当時のことをよく知る研究者は、ベンソン氏の貢献の大きさから、言葉の短縮を好まず、「カルビン−ベンソン回路」とよんでいます。その時の微妙な人間関係は、アメリカ植物科学会(American Society of Plant Biologists)のインタビュー別ウィンドウで開きますでも語られています。そこで、人の名前をつけるのでなく、最初の産物3PG(この化合物の炭素数が3つ)にちなんでC3回路を選ぶ人もいます。また、RPP回路(Reductive Pentose Phosphate 回路、還元型五炭糖リン酸回路)とする人もいます。

このC3回路が明らかになった後、この結果を確かめようと、世界中で追実験が行われました。ハワイのH.P. Kortschakらがサトウキビで調べたところ、異なる結果となりました。この結果が、特殊な時に起こる現象ではなく、サトウキビの特徴であることを示すためにいろいろ実験を繰り返したようです。そこで、オーストラリアの製糖会社で研究をしていたM.D. Hatchらがトウモロコシで調べ、まず、炭素数4つのオキサロ酢酸ができ、リンゴ酸やアスパラギン酸になる炭素代謝系、C4回路を見出しました。「カルビン=ベンソン回路」をC3回路とよぶ理由もここにあります。Hatchは、日本の天皇陛下からいただく賞、国際生物学賞を1991年に受賞しています。

C4回路は、回路の途中でCO2(正確には、HCO3-)を放出します。放出されたCO2(HCO3-がCO2に変化して)は、C3回路に固定され直す仕組み(RuBPとの反応はCO2)になっています。こうした植物の葉では、C3回路の働く細胞(維管束鞘細胞)とC4回路の働く細胞(葉肉細胞)に分かれていることが特徴的です。C4回路をもつ植物は、C4植物と言われますが、イネ科のトウモロコシやサトウキビだけでなく、カヤツリグサ科やヒユ科、アカザ科など、単子葉双子葉の複数の科に分布して見られます。それぞれの科の中で、C3植物とC4植物が見出されるのです。

C3植物のササは、維管束のまわりにある維管束鞘細胞に葉緑体がなく、一方C4植物のエノコログサは維管束賞細胞に葉緑体が多く存在するため、維管束のまわりが、つまり筋状に緑に見えるのです(写真)。なお、C3植物では、葉肉細胞にあたる柵状組織と海綿状組織の細胞でC3回路が働いています。

イネや小麦、ホウレンソウなどの穀物や野菜の多くは、C3植物ですが、熱帯や亜熱帯のやや乾いたところにC4植物が多く見られます。強い光、少し高温の下で、高い光合成効率を示します。CO2濃度が低いところでも光合成ができますので、有用な植物を“C4植物にしたい”という考えで研究している研究者もいます。一つの夢を実現しようというところです。

光合成の違いによる葉の特徴

エノコログサ
ササ
解説
光合成における二酸化炭素固定方法が、ササはC3型、エノコログサはC4型.そのため、ササの葉脈は白く抜けているのに対し、エノコログサの葉脈は緑が濃くなっている

メヒシバ
C4植物は空に掲げるとわかる