学科紹介 植物のリン獲得戦略

多くの陸上の植物は、土壌から窒素やリンなどの栄養塩を吸収して、アミノ酸やタンパク質、DNAなどを合成しています。野外では、窒素やリンが不足する場所が多いです。植物は窒素不足やリン不足にならないために、さまざまな戦略をもっています。マメ科植物やハンノキのなかまは、バクテリアや放線菌と共生して、大気窒素をアンモニアにするしくみ(窒素固定)をもちます。

リンに対して、植物にはどのようなしくみがあるのでしょうか?リン不足に対して、植物は菌根というしくみをもっています。菌根とは、植物の根に担子菌などの菌類が共生しているものです。秋の森林には、さまざまなキノコが生えています。キノコは、樹木と共生している担子菌が胞子を飛ばすためにつくっている子実体です。キノコをつくらない季節でも、菌類は菌糸を土壌内にはりめぐらし、リンを吸収し、共生している植物に提供しています。代わりに植物は、光合成から得られた炭水化物を菌類に提供しています。植物のなかには、このような菌類との共生関係から、寄生関係に変化したものもいます。ランのなかまには、ツチアケビやマヤランのように光合成する葉をもたないものがいます。このようなランは、菌類に寄生して、リンだけではなく窒素や炭水化物も獲得しています。ギンリョウソウも菌類に寄生している植物です。

多くの植物は、菌類と共生する菌根をもつことでリン不足にならないようにしていますが、すべての植物が菌根をもつわけではありません。リンが少ない環境でも菌類と共生しない植物がいます。1つのタイプは食虫植物です。食虫植物は、捕獲した昆虫などから窒素やリンを得ています。もう1つのタイプはクラスター根をもつ植物です。日本にはクラスター根をもつ植物種はほとんど自生していませんが、オーストラリア大陸の西海岸や南アフリカなどでは、土壌のリンが非常に少ないのに、菌根を形成しないクラスター根をもつ植物が多く見られます。それでは、クラスター根とはどんなものなのでしょうか?

クラスター根は、写真のシロバナルピナスの根のように、側根が密に生えているブラシ状の根です。このブラシ状の根からは、クエン酸などの有機酸やフォスファターゼなどの酵素が土壌に放出されます。クエン酸やフォスファターゼをつかうことで、植物は直接吸収できないタイプの不溶性のリンを可溶性のリンに変化させることができます。ブラシ状のかたちは、土壌内で局所的に有機酸やフォスファターゼの濃度を高めて、可溶性のリンを吸収することに役立っているようです。

クラスター根をもつ植物種には、高濃度のリン肥料をあげると枯れてしまうものもいます。枯死してしまうしくみはまだわかっていませんが、そのような植物種を保全するためには、生活排水を気をつける必要があります。

水耕栽培したシロバナルピナス。写真の下のほうにブラシ状に生えるクラスター根が見える。