学科紹介 老化が起こるしくみ その1

日本人の平均寿命の推移
(厚生労働省大臣官房統計情報部「平成23年簡易生命表」をもとに作成)

日本人の平均寿命は男79.3歳、女86.05歳となり、男女ともに過去最高を更新したことが、平成21年の厚生労働省の統計により明らかになりました。平均寿命の伸びに注目すると、1950年代には主要先進国中、最低だった日本人の平均寿命は、1970年代から徐々に他の国に追いつき、ついに世界一になりました。ここまで寿命が伸びてきた理由としては、医療技術や食生活の改善などの生活環境の整備が大きな役割を果たしてきたからだといえるでしょう。さて、日本人の平均寿命はこのまま伸び続けて、200歳、300歳まで到達するのでしょうか。そうではなさそうです。今のところ、人間の寿命は最高でも120歳を超えないくらいが限度であろうと推測されています。それでは、なぜ人は老化するのでしょうか。老化が起こる仕組みとしていろいろな仮説が考えられています。主なものとしてプログラム説があります。各生物の寿命を見てみると、線虫10日、ハエ4ヶ月、マウス2年、サル25年、ヒト70年、ゾウ70年というぐあいに、生物種によって決まっています。つまり個体寿命にはある程度のばらつきがあるにせよ、生物種によって生まれてから死ぬまでの時間はあらかじめプログラムされている、という考え方がプログラム説です。1961年米ウイスター研究所のL・ヘイフリック博士は、若い人の体から細胞を採ってきて、シャーレの中で培養してみました。すると、細胞は50〜60回分裂するともうそれ以上分裂しなくなりました。さらに、40歳とか80歳の人から細胞を採ってきて培養すると、細胞の分裂する回数が年齢の分だけ少なくなるということを発見しました。このように、培養細胞の分裂回数に制限があることを「ヘイフリック限界」といいます。一方でヒト以外の動物について細胞の分裂回数を調べてみると、寿命が長い生物種から採取した細胞ほど細胞分裂の限界回数も多くなるということが明らかとなっています。以上のことから、生物の体を構成している細胞には、寿命があって、ある回数以上は分裂できないこと、すなわち細胞には寿命があることがわかりました。細胞が一定の回数以上は分裂することができない理由のひとつとして、染色体の「テロメアの短縮」という現象があげられます。染色体DNAの末端部分はテロメアとよばれ、TTAGGGという塩基配列の繰り返し配列で構成されています。テロメアは、染色体の構造を安定化するなどの役割をもっています。実は、細胞分裂においてDNAが複製されるたびに、テロメアの繰り返し配列部分が端から50〜100塩基ずつ短くなっていきます。細胞分裂が繰り返され、テロメアがある限度を超えて短くなると、染色体の構造が不安定になったり、テロメアよりも内側にある大切なDNA配列が削れてしまいます。その結果、細胞はそれ以上分裂できなくなってしまうというわけです。