学科紹介 ヒトコブラクダとフタコブラクダが異種交雑したら子供のコブは何個?
ヒトコブラクダとフタコブラクダが異種交雑したら子供のコブは何個?
答え:(「1コブ」+「2コブ」)÷2=1.5コブ(ヒトコブハンラクダ)
ライオンとトラが交雑するとライガーやタイオンが生まれます。ライオンやトラは、自然環境では生息地域がアフリカとアジアとかけ離れているため交配することはありませんが、人工飼育環境下では交雑可能です。これを異種交雑と呼びます。通常、異種交雑によって生まれた雑種第一世代(F1)は、父と母の中間の形質を持ちますが、父方と母方から受け継いだ染色体の本数や構造が異なるため、減数分裂に異常を生じ不妊(妊孕性がない)であり、子孫を残せない、と説明されます。
一方で、在来種と近縁外来種による交雑によって生じた雑種が環境に適応し、在来種を駆逐してしまう環境問題もあります。タイリクバラタナゴとニッポンバラタナゴがしばしば例に挙げられますが、これらの異種交雑の様に、異種親間の染色体構造等が酷似する場合では、F1にも妊孕性があり子孫を残せます。
哺乳類でも異種交雑F1に妊孕性がある生物種はいます。その一例がタイトルに挙げた、ラクダです。ヒトコブラクダDromedary (Camelus dromedarius)とフタコブラクダBactrian camel (Camelus bactrianus)の交雑は、古代から中東や中央アジアの各地で行われていました。その背景には、交易キャラバンや軍事介入に適したラクダを手に入れる目的がありました。これらのラクダの異種交雑が現在でも行われているのは、トルコとカザフスタンの2地域のみです。トルコでは、毎年行われるラクダ相撲大会に出場する大型のラクダを得るために、カザフスタンでは、中央アジアの厳しい気候に耐え、より生産性の高いラクダを得るために交配が行われています(参考文献1)。ヒトコブラクダは大きなコブが一つ、フタコブラクダは明瞭なコブが二つ観察されます。F1であるヒトコブハンラクダのコブは、なだらかに長く、背丈の低い形をしており、ヒトコブラクダとフタコブラクダの中間形質を示しています(図参照)。ヒトコブラクダもフタコブラクダも染色体は74本であり、染色体構造も酷似しています。結果としてF1は妊孕性があり、F1同士やF1と親世代種間との交配ができると考えられます。
そういえば、2022年ノーベル生理学・医学賞を受賞したスバンテ・ペーボ(Svante Pääbo)博士の研究によると、私たち現代のヒト(Homo sapiens) も古代のHomo sapiensとネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の雑種ですね(参考文献2)。
参考文献1
Dioli, M. Dromedary (Camelus dromedarius) and Bactrian camel (Camelus bactrianus) crossbreeding husbandry practices in Turkey and Kazakhstan: An in-depth review. Pastoralism 10, 6 (2020). https://doi.org/10.1186/s13570-020-0159-3
参考文献2
Green, R., Krause, J., Ptak, S. et al. Analysis of one million base pairs of Neanderthal DNA. Nature 444, 330–336 (2006). https://doi.org/10.1038/nature05336