学科紹介 ヒトのゲノムサイズは意外と小さい

生物は、DNAやRNAを遺伝物質として、ゲノムと呼ばれる、独自の遺伝情報を保持しています。このゲノムに保存された情報をもとに、生命活動を担うタンパク質等を作りだしています。ゲノムの持つ情報量(ゲノムサイズ)は小さいものから大きなものまで様々です。ウイルスの様な簡単な構造からなるものは極小の遺伝物質に納まる小さなゲノムサイズ(10kb~30kb程度)を持ちます。より複雑な構造を持つ単細胞生物である大腸菌や酵母は、ウイルスと比較し100倍~1000倍のゲノムサイズ(各4.6Mbp, 11.8Mbp)を保持しています。多細胞生物では、ゲノムサイズは更に大きくなり、線虫、シロイヌナズナ、ショウジョウバエは100Mbp程度となります。更に複雑な生態を持つ生物では、ゲノムサイズは1Gbp以上に及び、私たちヒトでは3.2Gbpのゲノムを持っています(表・図参照)。

ここまでに述べたモデル生物とゲノムサイズの関係性から、進化的に後世に出現した生物ほど大きなゲノムサイズを持つかのように見えますが、ゲノム解読がなされた生物の中で最大級のゲノムサイズは、ハイギョ(Neoceratodus forsteri :43Gbp)やサラマンダー(Ambystoma mexicanum :32Gbp)であると知られています(参考文献1)。また、推定される最大のゲノムサイズを持つ生き物として、日本固有種であるユリ科の多年草キヌガサソウ(Paris japonica)が挙げられ、ヒトの核内ゲノム量の50倍量のDNA量である150Gbpとされています(参考文献2)。また、アメーバの一種である(Ameba dubia)のゲノムサイズを670Gbpと推定した研究もあります(参考文献3)(図参照)。これらはハイギョのゲノム研究に用いられた最先端技術である次世代シークエンサーを用いたゲノム情報の解読は未完了であるため、ゲノムサイズは推定の域を出ず、更なる研究結果の報告が待ち望まれています。

このように生物は多様なゲノムサイズを持ちます。SARS-CoV-2の様に小さなゲノムに詰め込まれた情報を駆使したり、あるいは、ヒトの様に未だ解明しきれていない膨大なゲノム情報によって多様な環境に適応したりして、全ての生物が強かに生存競争を繰り広げているのです。

参考文献1

Meyer A, Schloissnig S, Franchini P, Du K, Woltering JM, Irisarri I, Wong WY, Nowoshilow S, Kneitz S, Kawaguchi A, Fabrizius A, Xiong P, Dechaud C, Spaink HP, Volff JN, Simakov O, Burmester T, Tanaka EM, Schartl M. Giant lungfish genome elucidates the conquest of land by vertebrates. Nature. 590, 284–289 (2021), doi: 10.1038/s41586-021-03198-8

参考文献2

Pellicer J, Fay MF, Leitch IJ. The largest eukaryotic genome of them all? Botanical Journal of the Linnean Society. 164, 10–15 (2010), doi: 10.1111/j.1095-8339.2010.01072.x

参考文献3

McGrath CL, Katz LA. Genome diversity in microbial eukaryotes. Trends Ecol Evol. 19, 32–38 (2004), doi: 10.1016/j.tree.2003.10.007. PMID: 16701223

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