学科紹介 ストレスとは何か?

現代はストレス社会であると言われるほど、「ストレス」という言葉は身近でよく使われています。では、そもそも「ストレス」とは何のことを指す言葉なのでしょうか?「ストレス」はもともとは物理学の分野で用いられていた用語で、物体の「ひずみ」を意味する言葉でした。例えば、丸い風船を人差し指で押すと、押した部分がひっこみますが、このときにひっこんで歪んだ状態になった部分のことをストレス(状態)と呼び、ストレスを引き起こす原因となる外部刺激(この場合は人差し指)のことをストレッサーと呼びます。

その後、この言葉を医学領域に取り入れてストレス学説を提唱したのがカナダの生理学者であるハンス・セリエ博士(1907-1982)です。セリエは、多種多様なストレッサーからの刺激によって実験動物が同じように一定の変調をきたすことを観察し、「生体に作用する外からの刺激に対して、体に生じたひずみ(生体の非特異的な反応)の総称」をストレス状態と定義しました。また、セリエは生体の反応は時間に応じて3つの反応相に分けられると考えました。まず、ストレッサーを感知して緊急反応が生じる時期である①警告反応期、次に、生体の自己防衛能が出来上がりストレッサーとストレス耐性が拮抗している時期である②抵抗期、最後が、抵抗期が長引きストレッサーに抵抗し続けるエネルギーが枯渇してしまった③疲憊期です。

つまり、ストレスとは外部環境の種々の要因が変化したとき、それが刺激となって生体に様々な機能変化が起こった状態を意味します。最近では、「ストレス」という言葉が「ストレッサー」の意味でも使われることも多くなりました。ストレスの原因となる要因としては、物理化学的(熱、音、放射線、化学物質、酸化還元状態の変化など)、生物学的(感染、寄生虫など)、精神的(緊張、不安、恐怖など)なものなどが挙げられ、多種多様といえます。

生体の外部環境は絶えず変化していますので、生体は内部環境の恒常性維持(ホメオスタシス)のために適切な応答をすることになり、それを担っているのが生命が進化の過程で獲得した“ストレス応答系”になります。生体は環境の変化に適応するため、個体レベルでは神経系、内分泌系、免疫系などのシステムを介して応答し、細胞レベルでもストレス傷害からの細胞機能に保護に関わるストレスタンパク質などの発現を誘導したりして応答します。近年の研究の進展に伴い、私達の体にはホメオスタシスを維持するための鋭敏で精巧な防御システムが分子レベルで構築されて機能していることが分かってきています。ストレスが多くの疾患の発症とも関連していることは広く認識されており、現在も研究が進められています。

stress_900x600.jpg