ニュース&トピックス 東医真菌懇話会にて一般演題優秀演題賞を受賞しました。

  • 生命科学部
  • その他

2018.06.28

演題名:物理化学と計算科学によるアガリクス由来βグルカンの立体構造解析

松村 義隆1、井上 広大1、墨野 倉誠1、久保 美香子1、出村 茉莉子1,市岡 隆幸1、森本 康幹1、田代 充2、石橋 健一3、大野 尚仁3、小島 正樹1 1東京薬科大学生命科学部、3薬学部、2明星大学理工学部

βグルカンは病原性真菌細胞壁の主要構成多糖である。βグルカンはキャンディン系抗真菌薬のターゲット分子であることから、抗菌薬の構造活性相関の観点から重要な分子である。さらに、深在性真菌症患者血中からbグルカンが検出されることから早期診断に汎用されている。また、βグルカンに対する受容体としてdectin-1等が見出されており、感染免疫ならびに自然免疫の観点からも重要な分子に位置づけられている。しかしながら、スエヒロタケ由来のシゾフィランを除いて、一般にβグルカンは水に溶けにくく揺らぎが大きいため結晶化が困難であり、溶液状態の天然立体構造はあまり研究がなされていない。

我々はX線溶液散乱(SAXS)、原子間力顕微鏡(AFM)、NMR等の物理化学的手法と、分子動力学法による計算機シミュレーションを組み合わせて、Agaricus brasiliensis由来のβグルカンの立体構造の解析を行った。その結果、βグルカンは水溶液中で多分散で三量体または単量体として存在すること、分子の形状は球状で、β-1,6結合の主鎖とβ-1,3結合の側鎖(10%以下)から成ること、単量体は螺旋構造を形成していること、が明らかとなった。こうした知見は、他のβグルカンを含む従来の研究報告と矛盾しなかった。今回の手法は、水に溶けにくいβグルカンの高次構造解析に広く応用できることが期待される。今後は、真菌症の診断として利用されているβ-1,3グルカンの構造解析も進めていきたい。