ニュース&トピックス 環境生物学研究室に新開 泰弘教授が4月より着任しました

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2023.04.10

環境生物学研究室の教授に着任した新開 泰弘教授にインタビューします!

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Q:今まではどのような研究をされていたのでしょうか?

 東京薬科大学に着任する前は、筑波大学にて、主に環境化学物質に対する生体の防御・応答システムについて研究していました。日本で過去に起きた公害病の問題は皆さんも学校で学んで知っていると思います。イタイイタイ病や水俣病は、それぞれカドミウムやメチル水銀といった有害金属によって引き起こされた訳ですが、実は今でもその分子メカニズムはよく分かっていないことの方が多いのです。また、これらへの曝露は過去の問題だと思っている人も多いかもしれませんが、環境中にはユビキタスに存在していて低容量曝露は起こり得ますので、複合的な曝露も含めてそのリスクが現在でも議論されています。私は特に、生体がそのような有害な化学物質に対して備えている防御システムに興味を持ち、それを明らかにすることで人間の健康の維持や増進に少しでも貢献できれば、と思って研究を行ってきました。

 

Q:これから「環境生物学研究室」ではどのような研究を展開していきたいですか?

これからも引き続き、環境ストレスに対する生体の防御・応答システムについて研究していきたいですね。特に着目しているのが、硫黄原子です。硫黄は硫化水素のイメージから毒という印象が強いかもしれませんが、体の中で積極的に作られ、生命の維持にとても有用な役割を果たしていることが分かりつつあります。いくつかのタンパク質のシステイン残基に硫黄原子が付加していることも分かってきておりますし、硫黄原子はカテネーションといって直鎖状に繋がることもできます。最近はこの硫黄カテネーションのことを「超硫黄」とも呼び、注目を浴びています。反応性が高い環境化学物質に対しても、この超硫黄が鍵分子となって守っていることが考えられます。それから、これまでは細胞の中で起きている現象が主な研究対象でしたが、細胞の外で起きていることにも目を向けていきたいですね。細胞を培養していると、システインが活発に培養液中に放出され、それが防御的に働いていることを私たちは最近報告しました。この面白い現象に、よりスポットライトが当たるような研究も展開できたらと思います。

自分の研究室を持ち、これからが私の研究の新たなスタートだと、決意を新たにしています。応用生命学科に属しているということもありますので、応用的な新しい研究にもチャレンジしていきたいと思います。つまりは、生命現象の根幹をなすシステムの解明からその活用まで、皆さんと共に幅広く研究を発展させていきたいです。

 

Q:研究者になろうと思われたきっかけがあればお教えください

 私の伯父さんは針原孝之(二松学舎大学名誉教授)といって日本の国文学者でした。とても尊敬できる方で、甥っ子の私にも親身になって接してくださり、その影響もあり大学の先生になるのが小さい頃からの私の夢でした。残念ながら2020年に他界され、私が教授になった姿をお見せすることができなかったのは少し心残りです。

子供の頃から一番好きな科目は理科だったので理系に進むことに迷いはなかったのですが、具体的にどういう分野に進んでいいのか分からずに暗中模索の日々を過ごしていました。進学校でしたが高校生の頃ははっきり言って落ちこぼれと言ってもいい成績でしたし、自分が大学の先生になれるとも全く思っていなかったですね。夢と現実は違う、と。ただ、この世に生を受けたからには、何か自分の足跡を残せる仕事がいいなと考えたときに、やはり研究者は魅力的な職業だなと思いました。英語で論文を書いてそれが雑誌に掲載されれば、世界中の図書館に自分の名前が残るではないかと(今は論文を読むのもネット中心なので、紙ベースで学術雑誌を手に取る機会は殆ど無くなりましたが)。なので、大学に入学してからですが、具体的にどの分野に進んでいくのかを決めるために、いろんな本を読み漁りました。その中で強く影響を受けた本が2冊あります。

1つが、「精神と物質」(利根川進/立花隆著)、もう1つが、「二重らせんの私」(柳澤佳子著)です。2冊ともすごく読みやすくて面白いので、お薦めです。仮説と検証に基づいたサイエンスの醍醐味が詰まっていますし、生命科学ってこんなに面白いんだと再確認させてくれました。そして、両方ともにアメリカでの留学話が中心なのですが、自分もいつかは留学してみたいと、夢が広がりました。本当になれるかどうかは分からないけど、研究者を志してみよう、と決意を固めるきっかけになりました。

 

Q:学生のうちにやっておいたほうが良いことをアドバイスして頂けませんか。

ちょうど東京薬科大学に赴任するための引っ越し作業をしていたら、自分が大学生の頃に書いたノートブックが出て来て、当時の自分は一体何を書いていたのだろうと少し読み返してみました。そうしたら、「人と会話して得られる情報も重要だが、どんな本を読んでいるかがその人の人格形成に大きな影響を与える。他の人とは少し違う考え方を持つためにも、とにかく沢山いろんな本を読む必要がある」という趣旨の決意が書かれていました。思い返せば、確かにいろいろ読みましたね。特に大学生の頃は時間がありますから、自分が特に興味がある分野を絞り込むためにも読書は大事です。結局、面白ければ人はそれを続けることが出来るのです。ですから読書といっても、本を読みはじめても途中で面白くなければすぐに読むのを辞めていました。無理して最後まで読むような時間の無駄は必要ありません。乱読で良いと思いますので、多くの知識に触れて想像をめぐらせてみてください。そうする内に、自分が特に興味がある分野に気づいていけると思います。私の場合は、「環境」と「生命科学」という2つのキーワードに辿り付くことができました。

あとは、回り道をしてもいいから、自分の目標を見つけることが肝要だと思います。漠然とした夢を持っていても、具体的な目標がなければなかなか頑張ることはできません。逆に言えば、目標が設定できると、それに向かって行動する気力が涌いてきます。私の場合は、「環境」と「生命科学」に関わる分野の研究者になるという目標が出来て、大きく人生が動き出した気がします。その人が今何を考えているのかが、その人の近い将来を決定づけるのだと思いますし、自分で自分の運命を動かしていって欲しいなと思います。

 

Q:高校生にもアドバイスがあれば一言お願いします。

先ほども言ったように、自分はお世辞にも成績が良い方ではありませんでした。高校生のとき自分は部活(ラグビー部所属でした)ばっかりやっていて、勉強には熱心に取り組んでいなかったというのもありますが、具体的な目標が設定できていなかったので勉学へのモチベーションが非常に低かったのです。大学にも現役では受からず、2年間の浪人も経験しました。当時はなんて無駄な時間を過ごしてしまったのか、と落ち込んで自分を責めたりもしました。しかし、今になって考えてみると、その2年間も私にとって自分自身を見つめ直す、そして未来に繋がる必要な時間だったと捉えることができます。

受験勉強ははっきり言って楽しくありませんでした。しかし、本来、学ぶということは圧倒的に面白いことなのです。それは間違いありません。大学生になれば、自分の好きなことを勉強して追求することができますし、それをサポートしてくれる人もいます。大学に入ってからどう過ごすかが一番重要だと思いますし、大学生活を楽しみにして頑張って頂けたらと思います。

自分が好きな言葉に「人間万事塞翁が馬」という言葉があります。長い人生では楽しい事や嬉しい事もあれば、辛い事や悲しい事もありますが、何が幸せで何が不幸かはすぐに決まるものではない、というものです。こんな落ちこぼれだった自分も、諦めず夢にしがみついていたら、大学教授になるという世界線に辿りつきました。例えば高校生活が自分の思い通りにいかなかったとしても、それが永遠に続くことはないので、腐らず、潰れず、人生を楽しんで欲しいと思います。

 

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東京薬科大学 生命科学事務課