木村 隆志

福島県庁 保健福祉部 薬務課(2023年10月26日 取材当時)

福島県立会津高等学校 出身
薬学部 医療衛生薬学科 卒業

学んできた薬学的知識を広く活かし、地域に貢献できる道へ

大学生活を通して学んだ「時間の使い方」と「バランス感覚」。

中学生の時、祖母の病気に対して、「日本初の分子標的薬」が処方されました。この薬は祖母には奏功しましたが、一方で致死的な副作用の発現が社会的に問題となっていました。私が薬学部を志望したのは、このような状況を目の当たりにし、同じ薬を服用しているのに副作用などの個人差が出てしまうのはなぜか、詳しく知りたいと思ったことがきっかけです。

また、祖母の病気の療養生活に触れるうちに、薬学部に入学後は緩和医療を学びたいという想いも持ちました。このこともあって、4年次からの研究室配属では、緩和医療の研究を行っている医薬品安全管理学教室を選択し、6年次までの3年間、研究に従事しました。

東薬に入学して受講した科目で、1年次から学べる「有機化学」が印象に残っています。薬の副作用の発現の機序や、何がどのように体に作用するのかなど、物質としての薬の知識を得ることができ、入学前に知りたいと思っていたことを深く理解できました。簡単ではない科目でしたが、学べてとても良かったと感じています。

6年間の大学生活を通じて、さまざまな経験をしましたが、総括として最も得られた力は時間の使い方だと思います。
薬学部は座学・実習以外に、研究、卒業試験や国家試験があり、またさらに私の場合は公務員試験の対策などもしていました。東薬のカリキュラムには、公務員試験の対策になる科目や、国試に向けた対策科目などが開講されていたので、知識をゼロから詰め込むということはなかったのですが、それでも忙しいことに変わりはありません。効率よく時間を使ってそれぞれのタスクをこなしていくことが必要になります。
ひいては、自分のタスクに対してどれだけのリソースを注ぎ込んでよいかの感覚も必要となりますので、このバランス感覚も6年間で養うことができた能力だと思います。

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学んできた薬学的知識を広く生かして貢献したい。

福島県庁に入庁し9年目、現在私は薬務課に在籍しています。ここでは、

  • ジェネリック医薬品の安心使用促進にかかる普及啓発事業
  • 医薬品等製造販売者の「医薬品の品質管理(GQP)」「製造販売後の安全管理(GVP)」の方法が、厚生労働省令の要求事項に適合しているかを審査する立入検査

これらを主に担当しています。

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入学からしばらくは、病院薬剤師として医薬品の化学的構造から副作用等を説明できる薬剤師として地域医療に貢献したいと思っていました。しかし、5年次の実務実習で、病院実習中に医療法に基づく立入検査に居合わせ、保健所で勤務する薬事監視員の業務を知りました。食品衛生や環境衛生など、地域住民生活に直結した業務に携わることができると知り、公務員なら自分が学んできた薬学的知識をより広く活かして地元や地域医療に貢献できるのではないかと思ったのです。
これが、現在の職を志したきっかけです。

現在までの仕事でも、薬学部で学んできた知識はとても役立っています。県内医薬品原薬工場の立入検査(GMP適合性調査)の際などは、有機化学の座学や実習で学んできたことが役立っていますし、品質管理や品質保証の調査の際には、統計的手法に基づくデータの収集及び解析の予備知識が必要となることもありました。

今振り返ってみて、学べてよかったと強く思える科目があります。それは5年次の選択科目「医療経済学特論」です。
現在、医療費適正化を見据えたジェネリック医薬品の普及促進策として、フォーミュラリーが注目されています。フォーミュラリーの作成には費用対効果分析を始めとする薬剤経済学の考え方が必要になります。「医療経済学特論」ではこの薬剤経済学を取り扱っていましたが、当時の薬学部で薬剤経済学を学べるところはあまり多くなかったのではないでしょうか。
時代の先を見据えた科目を当時に学ぶことができて、大変感謝しています。

今後の目標は…

上述のように、東京薬科大学でさまざまな経験を通じ、多くの学びを得てきました。東薬に入学して本当に良かったと感じています。

今後も学んできたことや得た力を活かして、世界でも未曾有の少子高齢化時代に突入している日本ですが、今ある何気ない日常を、住み慣れた場所で、これから先の世代の県民の方も安心して送れるよう、薬事行政面からのアプローチを思案し、将来を見据えた支援に携わっていきたいです。

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今、進路に迷っている皆さんへ。先輩からのメッセージ。

薬剤師は「街の科学者」とも呼ばれ、その理由として、科学一般について広く履修していることが挙げられます。もし理系学部で、どの学部を選べば良いか進路に迷う受験生の方がいるならば、自分の適性を模索しながら、一通りの科学について学ぶことができる薬学部を私はお薦めします。

東京薬科大学は国内最古の私立薬科大学であり、卒業生が非常に多いことが特長です。また、国内初の生命科学部設置大学でもあり、メディアに取り上げられる有用な研究が数多く行われています。歴史と卒業生数に裏付けられた様々なモデルケースが本校にはありますので、未来の後輩の皆さんにもお薦めしたいです。将来どんな薬剤師や研究者になりたいかを想像しながら、安心して受験勉強に臨んでいただければと思います。