新型コロナウイルス研究 #01
SARSコロナウイルスプロテアーゼ阻害剤 “YH-53”
- 薬学部
- 治療薬開発
薬学部 医療衛生薬学科
薬品化学教室 林 良雄 教授
3CLプロテアーゼ阻害薬 -- COVID-19治療薬の最も有望な候補
ウイルスが有するプロテアーゼ(蛋白質分解酵素)の阻害薬は、AIDSやC型肝炎の特効薬です。そして、COVID-19の病原体SARS-CoV-2も独自のプロテアーゼ(3CLプロテアーゼ)を有しており、その増殖に必須となります。したがって、3CLプロテアーゼ阻害薬はCOVID-19治療薬の最も有望な候補であり、ウイルス増殖抑制によりCOVID-19の重症化も軽減できると言われています。
我々は、2002年中国での重症急性呼吸器症候群(SARS)の勃発を機に、3CLプロテアーゼに対するペプチド型阻害剤の創製研究を開始していました。具体的には、3CLプロテアーゼのメカニズムに基づき分子デザインを展開し、独自の酵素阻害構造を発案、構造最適化に基づく阻害活性の強化を図り、2013年の段階で図に示す複数の3CLプロテアーゼ阻害剤を創製しています。1, 2) 中でもYH-53(Ki値※ : 6 nM)は、分子を小型化した強力なジペプチド型阻害剤です。2)
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※Ki値 -- 酵素阻害定数。酵素をどのくらい強く阻害するかの値。小さければ小さいほど強く阻害する。
コロナ終息を目指し、アカデミアから創薬基盤を導く
今般のSARS-CoV-2の3CLプロテアーゼに対しても、YH-53は強力な酵素阻害活性(Ki値 34 nM)を示しています。さらに細胞を用いた抗ウイルス試験において10 μMでウイルス増殖を完全に抑制しました。各種安全性評価でも良好な結果を得ており、この研究は最近創薬化学の一流誌に受理された実績があります。3) これらの結果は、YH-53が明確な作用機序に基づき抗ウイルス作用を発揮する優れた阻害剤であることを示唆しています。社会が本格的にCOVID-19治療薬開発を進めている現在、我々はアカデミアの立場から創薬の基盤となる貴重な学術的情報を発信しています。一日でも早い新型コロナウイルス感染症の終息に向け、更なる研究の進展を目指します。
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1)Konno S., Hayashi Y. et al., Bioorg. Med. Chem., 21, 412-424 (2013).
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2)Thanigaimalai P., Hayashi Y. et al., Eur. J. Med. Chem., 65, 436-447 (2013).
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3)Konno S. Hayashi Y. et al., J. Med. Chem. doi.org/10.1021/acs.jmedchem.1c00665 (2021, July 27)