ニュース&トピックス 【共同プレスリリース】学校法人学習院・AMED・本学のミトコンドリアに関する研究がリリースされました

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2021.02.23

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【学校法人学習院・AMED共同プレスリリース】

ミトコンドリア機能異常によるアルツハイマー病増悪機構の解明―ミトコンドリアを標的とした新たな治療戦略を提唱―

発表のポイント

  • ミトコンドリア機能異常がアルツハイマー病の病態を悪化させるメカニズムの一端を解明しました。
  • ミトコンドリアの機能を調節する酵素MITOL(Mitochondria Ubiquitin Ligase)が高い毒性を持つアミロイドβオリゴマーの産生を抑制することを見出しました。
  • アルツハイマー病においてミトコンドリアを標的とする新たな治療戦略の開発が期待されます。

発表の概要

 認知症の中で最も患者数が多いアルツハイマー病は、記憶や思考能力が徐々に失われ、最終的には日常的な行動にも支障を来たす恐ろしい病気です。現在においても、アルツハイマー病の発症メカニズムの詳細は明らかにされておらず、有効な治療戦略は確立されていません。アルツハイマー病ではアミロイドβ(Aβ)と呼ばれるタンパク質の異常な凝集が引き金となって神経細胞死が誘導されると考えられています。しかしながら、脳内でAβ凝集がどのように制御されるかについては未だよく理解されていませんでした。今回、東京薬科大学生命科学部の武田啓佑研究員と学習院大学理学部の柳茂教授らのグループは、アルツハイマー病においてAβ凝集がミトコンドリアを介して制御されることを明らかにしました。

 本研究では、アルツハイマー病モデルマウスを用いて、ミトコンドリア機能の低下により、毒性の高いAβオリゴマーが蓄積し、アルツハイマー病態が悪化することを明らかにしました。さらに、ミトコンドリア機能の低下によってAβオリゴマーが産生されるメカニズムとして、脳に沈着するAβ線維の変容が重要な役割を果たすことを示しました。これまでAβ線維は、線維自身がAβ凝集の足場となることが知られていましたが、今回、ミトコンドリアの機能が低下した脳内において、Aβ線維はAβ凝集、特にAβオリゴマーの形成を強く誘導することが明らかとなりました。

 本研究の成果は、ミトコンドリア機能がアルツハイマー病の新しい治療ターゲットになることを示唆しています。また、ミトコンドリア機能は老化とともに低下することが知られており、ミトコンドリア機能を活性化する薬剤はアルツハイマー病の発症を予防することが期待されます。

発表者

  • 武田啓佑(学習院大学 理学部 生命分子科学研究所 客員所員/東京薬科大学 生命科学部 分子生化学研究室 博士研究員)
  • 三ツ堀樹大(東京薬科大学 生命科学部 分子生化学研究室 大学院生)
  • 長島駿(東京薬科大学 生命科学部 分子生化学研究室 助教)
  • 伊藤直樹(学習院大学 理学部 生命分子科学研究所 客員所員/東京薬科大学 生命科学部 分子生化学研究室 大学院生)
  • 椎葉一心(学習院大学 理学部 生命科学科 分子生化学研究室 助教/東京薬科大学 生命科学部 分子生化学研究室 大学院生)
  • 稲留涼子(学習院大学 理学部 生命科学科 分子生化学研究室 博士研究員)
  • 柳茂(学習院大学 理学部 生命科学科 分子生化学研究室 教授/東京薬科大学 名誉教授)

ミトコンドリアの酵素がパーキンソン病原因遺伝子産物Parkinを分解し細胞死を防ぐことを発見―孤発性パーキンソン病の病態メカニズムに新たな概念を提唱―

発表のポイント

  • パーキンソン病原因遺伝子産物Parkin(パーキン)が細胞死抑制タンパク質(FKBP38)の分解を促進して細胞死を誘導するメカニズムを解明。
  • ミトコンドリアに存在する酵素MITOL(マイトル:Mitochondria Ubiquitin Ligase)がParkinを分解し、細胞死抑制タンパク質(FKBP38)を保護することで細胞死を抑制することを発見。
  • ミトコンドリアの酵素の活性化がパーキンソン病などの新たな治療標的になることを示唆。

発表の概要

 学習院大学椎葉一心助教と柳茂教授らの研究グループは、東京大学、新潟大学、東京薬科大学と共同で、パーキンソン病原因遺伝子産物Parkin1)が細胞死を引き起こすメカニズム、およびミトコンドリアに存在する酵素MITOL2)がParkinを分解することで細胞を保護していることを発見しました。

 ミトコンドリアは細胞内のエネルギー産生を担うだけでなく、細胞の生と死の運命を決定する主要な細胞小器官(オルガネラ)です。ミトコンドリアの機能低下は、パーキンソン病3)やアルツハイマー病などの神経変性疾患をはじめとする様々な疾患の原因になることが明らかとなっています。正常な細胞は、損傷や老化により機能が低下したミトコンドリアを選択的に除去する非常に巧妙なシステムを用いて細胞を保護しています。このシステムはマイトファジー4)(オートファジーの一種)と呼ばれ、パーキンソン病原因遺伝子産物として知られているParkinがマイトファジーの調節に重要な役割を果たしていると言われています。そのため、Parkinの機能欠失により、機能低下したミトコンドリアが蓄積し、パーキンソン病の発症につながっているのではないかと考えられています。

 一方で、近年、マイトファジーの進行途中でParkinが細胞死を誘導することや孤発性パーキンソン病患者脳において活性化したParkinが蓄積していることが明らかになりました。このことから、Parkinは機能欠失のみならず過剰な活性化によってもパーキンソン病を引き起こす可能性が考えられます。しかし、Parkinがどのように細胞死を引き起こしているのか、またParkinによる細胞を保護する機能と細胞死を誘導する機能の相反する二つの機能がどのように調節されているのかは不明でした。

 先行研究において、マイトファジーの進行時に細胞死が起こらないよう、細胞死抑制タンパク質であるFKBP385)が機能低下したミトコンドリアから脱出し、他のオルガネラである小胞体へ移行することが報告されていました。本研究グループは、今回の研究によって、同グループが以前に見いだしたミトコンドリアに存在する酵素MITOLの機能に異常がある場合、マイトファジーの際にParkinが小胞体上でFKBP38を分解し細胞死を引き起こすことを明らかにしました。一方で、MITOLが正常に機能している場合は、Parkinにより機能低下したミトコンドリアの除去を妨げないよう、MITOLがParkinを分解しFKBP38を保護していることを見出しました(図)。これらの結果から、MITOLはFKBP38を保護することによりParkinによる細胞死を誘導する機能と細胞を保護する機能の相反する機能を制御していることがわかりました。これらの新たなメカニズムの解明は、パーキンソン病やマイトファジーが関連する疾患に対し、MITOLの活性化を標的とした新しい概念による治療戦略に繋がる可能性が期待されます。

発表者

  • 椎葉一心(学習院大学 理学部 生命科学科 分子生化学 助教/東京薬科大学 生命科学部 分子生化学研究室 大学院生)
  • 武田啓佑(学習院大学 理学部 生命分子科学研究所 客員所員/東京薬科大学 生命科学部 分子生化学研究室 博士研究員)
  • 長島駿(東京薬科大学 生命科学部 分子生化学研究室 助教)
  • 伊藤直樹(学習院大学 理学部 生命分子科学研究所 客員所員/東京薬科大学 生命科学部 分子生化学研究室 大学院生)
  • 藤川雄太(東京薬科大学 生命科学部 分子生物化学研究室 助教)
  • 稲留涼子(学習院大学 理学部 生命科学科 分子生化学 博士研究員)
  • 柳茂(学習院大学 理学部 生命科学科 分子生化学 教授/東京薬科大学 名誉教授)
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【研究に関すること】

学習院大学 理学部 生命科学科 分子生化学研究室
教授 柳 茂 (やなぎ しげる)
  • 電話:03-5992-1262
  • shigeru.yanagi@gakushuin.ac.jp

【取材に関すること】

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