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2022.03.15

分子生命科学科:キーワード解説


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なるほど、そーだったんだ!


効く薬、効かない薬

なぜ薬が効くか、考えたことがありますか?飲み薬を例に簡単に説明しましょう。 

、まず、経口で服用した薬は胃や腸で水に溶解し、腸管から循環血液へと吸収されなければなりません。
吸収されるためには腸管の細胞膜を通過する必要があります。
、循環血液に入っても肝臓を通過する時に、他の化合物へ変換(=代謝)される場合があります。変換されてはいけません。
、さらに、循環血液に乗って脳や筋肉など効かせたい場所へ到達(=分布)しなければなりません。
、到達後、作用させたいタンパク質に結合して初めて薬効が現れます。
 

どの過程が欠けても「効かない薬」となってしまいます。薬が効くってすごいことですね。同じ薬が人によって効いたり効かなかったりするのも、このどこかの過程に個人差があるためと考えられます。molbio-key01-image01.pngmolbio-key01-image02.png

薬と毒は紙一重

薬と毒は似ています。抗がん剤を例に説明しましょう。
抗がん剤は文字通り体内のがん細胞を攻撃するために投与されますが、ガン細胞の速い増殖を抑制するそのメカニズムから、毛根細胞のような増殖しやすい正常な細胞も攻撃することがあります。抗がん剤は生体にとって「薬」でもあり「毒」でもあるのです。そのメリットとデメリットを天秤にかけて使用します。
一方で、もともと猛毒な化学兵器として使われていたものが薬になった例もあります。ナイトロジェンマスタードは、もともと化学兵器として使われていたものが、その特性を生かして抗がん剤へと転用されています。まさに毒をもって毒(ガン)を制する、です。

図2.jpg

高校で習う顕微鏡の種類

みなさんの学校で顕微鏡を使ったことがあるでしょうか?大学には高校で使った顕微鏡よりも性能が高い顕微鏡があります。以下にいくつか顕微鏡を紹介します。

・光学顕微鏡
学校の実験で使う顕微鏡はこれにあたります。対物レンズと接眼レンズを使用し、光をレンズに照射し、ピントを合わせます。培養細胞の簡単な確認にも使用します。

・電子顕微鏡
光の波長は、400~700 nm程度であり、原理的に光の波長よりはるかに小さい物を観察することはできません (見ることができる限界を分解能といい、光学顕微鏡は0.2μm程度)。電子顕微鏡は、光の代わりに波長の短い電子線を利用して、数nm程度の構造まで観察できます。

・蛍光顕微鏡
蛍光とは特殊な物質に特定の波長の光 (励起光) をあてると、吸収した光よりも長い波長 (低エネルギー) の光 (蛍光) を生じる現象のことです。これを応用して、見たいものに蛍光分子を融合させ、目的の物質だけを的確に区別することができます。蛍光顕微鏡は最初に当てた光 (励起光) よりも弱い光 (蛍光) 検出する装置です。特定の光だけを通すフィルターを使い、欲しい波長の光だけを検出することができます。タンパク質の場合、緑色蛍光タンパク質 (GFP: green fluorescent protein、2008年ノーベル賞、下村博士)を融合させ、細胞内での動きを見ることができます。
FIG1.png

高校の教科書に出てくるイントロンはなんのためにあるのか?

DNAは遺伝情報をもつエキソンとそれ以外のイントロンからできています。FIG2.png遺伝子はイントロンを含む全長がRNAに転写される(mRNA前駆体)、mRNAはイントロン部分が飛ばされ、mRNAができ、核外に搬出され、タンパク質ができます。教科書で勉強して、みなさんはイントロンいらないんじゃないの?と疑問に思いませんでしたか?
イントロンの重要性を酵母を使って実証した研究があるので、紹介します。 酵母は6000の遺伝子があるのですが、300程度の遺伝子しかイントロンを持っていません。 酵母のイントロンを大規模に欠損させた実験では1/3のイントロンが欠損しても栄養豊富な条件では問題なく成長したことがわかりました。一方で一部のイントロンは欠損すると成長に影響がありました。Molecular Biology of the Cell 2008よりヒトよりも単純な酵母でもイントロンは一定の役割があり、イントロンは進化の過程で増加しています。イントロンには複雑な機能、環境ストレスに応答するために、遺伝子に柔軟性をもたらす役割があるのかもしれませんね。

高校の教科書に出てくる細胞膜とは何か?生物の根幹となる要素

生体膜の重要性についてみなさんは考えたことがありますか? FIG3.png高校の教科書ではほんの一部分でしか紹介されませんが、実はすごく重要です。そもそも生物が存在できるのは細胞内小器官や細胞という区画があるからであり、それを隔てるための膜は非常に大事です。研究対象として魅力的なので、入試問題になることも多いかもしれませんね。

教科書では
1. 膜の内外の物質の拡散を防ぐ
2. 物質の輸送
3. 外部からの情報の受容や細胞内の情報伝達
FIG4.png

を担うとされています。

構成成分は リン脂質、タンパク質です。 リン脂質は親水性の頭部と疎水性の尾部からなります。 親水性は水と親しみやすく、疎水性は油と親しみやすいです。 図のように配列し、二重膜構造を取ります(脂質二重膜)。
リン脂質は主に【膜の内外の物質の拡散を防ぐ】役割を担います。 タンパク質は主に【物質の輸送】、【外部からの情報の受容や細胞内の情報伝達】の役割を担います。 タンパク質はエネルギー(ATP)を使い本来は膜を通過しない物質の膜内外への輸送 (能動輸送) を行うもの (ポンプ)、細胞外から刺激を受け取り細胞内に伝えるものがあります(受容体)。 また、タンパク質の力を借りてリン脂質と共同して 膜自身が変形して、細胞外の物質を取り込むエンドサイトーシスも重要です。


抗生物質と抗ウイルス薬、ワクチンの違い?高校化学、高校生物の知識で解説!

高校生のみなさんは病院でよく抗生物質をもらうことがあると思います。 みなさんが普段引くカゼはほとんどがウイルス性のものです。ではなぜ抗生物質が重要なのでしょうか?

1. 効果の対象が細菌かウイルスか
抗生物質は細菌などの微生物の成長を阻止する物質でそれぞれの細菌に効果があります。良い腸内細菌もいるのですが、食中毒などを起こすサルモネラなども細菌です。 以下に細菌とウイルスの違いを大雑把にまとめておきます。
FIG5.png
2. 抗生物質はもともと何?
微生物は進化の歴史の中で様々な悪条件に対応する能力を獲得してきました。他の菌との生存競争に勝つための抗菌性物質の生産もそのひとつです。それを人類が発見し、適材適所で利用することで様々な有用物質が生み出されてきました。教科書にあるペニシリンもその一つですね。

3. 抗ウイルス薬はどうやって見つけてきた?
ウイルスは寄生によって増殖し、生物のように自分で増幅するわけではありません。その効果と感染メカニズムは寄生対象に依存するので、微生物が抗ウイルス物質を生産していても、それはヒトには使えない可能性が高いのです。なので、抗ウイルス薬は微生物から取ってくるのが非常に難しいです。その結果、抗ウイルス薬化学合成したものが多くなっています。 さらにその遺伝子構造の単純さから、ウイルスの変異のスピードは早く、耐性ウイルスが問題になります(新型コロナウイルスのデルタ株のように)。 なので、ウイルスに対してはヒトがもともと持っている免疫機能を高めるためのワクチンが使われるわけです。

研究室での細胞の培養!高校化学、高校生物の知識で解説!

細胞培養に使う培地は緩衝液で等張液です。 細胞は5% CO2で満たされた保温庫の中で培養します。
細胞が破裂しないように等張液となるように栄養、塩濃度が調整され、pH変化を可視化するため、フェノールレッドが添加された培地で培養します。培養している間、細胞からは酸性の物質が放出されています。
培地には炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)が入っており、HCO3–は,細胞の代謝で生じた酸(H+)と結合し,二酸化炭素(CO2)と水(H2O)になります。CO2は大気中にどんどん揮発していくので、CO2が減っていってしまい、培地がどんどん塩基性になってしまいます。それを防ぐために、保温庫にCO2を添加してバランスを保っています。このようなpHを調整する溶液は高校では緩衝液として習います。 高校で習ういろんな要素を取り入れて、細胞の増殖に適した環境を整えています。FIG6.png

低侵襲・非侵襲な試料採取法と疾病の早期診断

超高齢社会において健康寿命の延伸が強く望まれています。血液一滴、あるいは尿や呼気などの苦痛を伴わずに採取できる試料を用いて、体調のわずかな変化や疾病を察知することができる早期診断技術の開発が注目されています。そこで重要となるのは、生体内における代謝反応の結果生み出される親水性の化合物群を精密に測定する技術です。
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呼気凝縮液の分析による早期診断法の開発や、そのための固相誘導体化-ガスクロマトグラフ質量分析法による親水性代謝産物の精密分析技術の開発に取り組んでいます。

網羅的な化学分析を通して生物の仕組みや環境汚染状況を解読

生物には、生育環境やストレスに対応し生体成分を調節することで適応する生存戦略が備わっています。化学物質の暴露などによって引き起こされる細胞内代謝の変動を調査するために、最先端の生体物質の網羅的な分析技術(リピドミクス、プロテオミクス、メタボロミクス等)やイメージング技術、多変量統計解析によりバイオマーカー等の有用な情報の抽出技術が利用されています。
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生体物質の網羅的な分析技術の開発に取り組み、これらを駆使した医薬品の安全性試験や有害化学物質の環境影響診断への応用を検討しています。

ナノ・マイクロバイオデバイスの創製と応用

ナノ・マイクロデバイスとは、1mmの1000万分の1から1万分の1スケールの構造体で、生体物質や化学物質の分離・検出デバイスの他、細胞培養足場として応用することが注目を集めています。マイクロデバイスでは、チップ上に加工されたマイクロ流路を利用して、混合・反応、抽出、分離などの化学反応を行うことが可能です。サイズを小さくできるので従来の方法と比べて必要とされる試薬や試料の量が微量で済むという利点があり、近年、これらは自動分析、そのための試料等の取扱いなどの分野で技術開発が進んでいます。
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新規のナノ・マイクロ構造体構築し、これまで困難であった生体分子の高速一斉分析を目指しています。また、マイクロ流体デバイスを応用した単一細胞分析法の開発にも取り組んでおり、平均的な観測・計測手法では知ることができない、個々の細胞における生命活動の詳細を検討しています。