ニュース&トピックス ヒトiPS/間葉系幹細胞等のヒト人工染色体ベクターによる遺伝子操作法を開発 -- 染色体工学技術により再生医療・がん治療研究を加速|プレスリリース

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2022.03.17

プレスリリース

ヒトiPS/間葉系幹細胞等のヒト人工染色体ベクターによる遺伝子操作法を開発 -- 染色体工学技術により再生医療・がん治療研究を加速

ポイント

東京薬科大学生命科学部 助教 宇野愛海(生物工学研究室)が、染色体工学技術によりヒト人工染色体(HAC)/マウス人工染色体(MAC)ベクターを保持するヒトiPS細胞や間葉系幹細胞、がん細胞株を作出しました。これら細胞中にて複数・複雑な遺伝子発現システムをHAC/MACベクターに迅速・簡便に搭載可能であり、再生医療やがん治療研究等を加速させると期待されます。

研究の背景
再生医療研究に用いられるヒトiPS細胞や間葉系幹細胞への遺伝子導入法として、プラスミドベクターを介した遺伝子挿入法が一般的な手法です。しかしながら、プラスミドベクターは搭載可能な遺伝子サイズに制限があり、近年求められる複数遺伝子や複雑な遺伝子制御配列を導入することは困難でした。これまでに鳥取大学香月研究グループ・東京薬科大学冨塚研究グループでは、ヒトやマウスの染色体を遺伝子改変し、ヒト人工染色体(Human Artificial Chromosome: HAC)ベクターやマウス人工染色体(Mouse Artificial Chromosome: MAC)ベクターを開発しました。これらの人工染色体ベクターの特徴としてHAC/MACベクターは、遺伝子導入サイズに制限がないこと、HAC/MACベクター保持細胞自身の染色体から独立して保持され意図しない遺伝子破壊を生じないこと、が挙げられます。また、Cre酵素によるloxP配列特異的なDNA配列組換え法(Cre-loxPシステム)や、複数(3種)のプラスミドベクターを同時に搭載する手法(Simultaneous-Integration of Multiple gene-loading vector system: SIMシステム)も開発されています。本研究ではこれらを活用し代表的ヒト培養細胞株として、ヒトiPS細胞や間葉系幹細胞等にHAC/MACベクターを導入して、Cre-loxPシステムやSIMシステムを用いたHAC/MACベクター上への遺伝子導入の実証を行いました。
成果について
  1. HAC/MACベクターを保持するヒトiPS細胞や間葉系幹細胞、がん細胞株を作出しました。
  2. ヒトiPS細胞等内のHAC/MACベクターに対してSIMシステムを用いて迅速・簡便に遺伝子導入可能なシステムを確立しました。
モデル実験として、蛍光遺伝子(赤色・青色)や発光遺伝子(ルシフェラーゼ)をそれぞれ持つ3種類のプラスミドベクターをHAC/MACベクターへとヒト細胞内にて同時搭載できると実証しました。
今後の展望
我々の研究グループより、これらHAC/MACベクター保持ヒトiPS細胞・間葉系幹細胞、がん細胞株を研究用資材として頒布致します。応用例として、再生医療学分野でヒトiPS細胞や間葉系幹細胞をCAR-T療法や組織再生因子分泌細胞移植療法が考えられます。基礎生物学分野では、ヒト細胞内における複数遺伝子や複雑な遺伝子制御領域の機能解明に役立てられます。合成生物学分野では既存遺伝子導入ベクターでは困難なメガベース(100万塩基対)規模のDNA配列を搭載可能な新規遺伝子導入用ベクターとして活躍するよう染色体工学技術開発を行います。

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原著論文

雑誌名
Scientific Reports
論文名
Panel of human cell lines with human/mouse artificial chromosomes
著者
Narumi Uno (宇野 愛海、筆頭著者), Shuta Takata, Shinya Komoto, Hitomaru Miyamoto,Yuji Nakayama, Mitsuhiko Osaki, Ryota Mayuzumi, Natsumi Miyazaki, Chiaki Hando, Satoshi Abe, Tetsushi Sakuma, TakashiYamamoto, Teruhiko Suzuki, Yoshihiro Nakajima, Mitsuo Oshimura, Kazuma Tomizuka &Yasuhiro Kazuki (香月 康宏、責任著者)
引用
N. Uno et al., Scientific Reports volume 12, Article number: 3009 (2022)
リンク
https://www.nature.com/articles/s41598-022-06814-3
リンク
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35194085/
Doi
10.1038/s41598-022-06814-3.
研究資金

 本研究は日本学術振興会科学研究助成事業(研究費番号15K19615 、18H06005)、日本医療研究開発機構(AMED)(JP21am0401002、 JP21bm1004001、 JP21gm1610006)、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(JST CREST)(課題番号JPMJCR18S4)の支援により実施されました。また、本研究の一部は鳥取県の運営するとっとりバイオフロンティアにて実施されました。
これらの研究は鳥取大学、広島大学、東京都医学総合研究所、産業技術総合研究所との共同研究成果です。

取材に関するお問い合わせ先

東京薬科大学 総務部 広報課

研究に関するお問い合わせ先

東京薬科大学 生命科学部 生物工学研究室 助教 宇野 愛海