河野 敦

ニチバン株式会社 製品設計部 研究開発職

東京都立南平高等学校

大学で培った多くの知識とフォロワーシップを活かして、夢に向かって邁進しています

化学メーカーに勤めて感じる「薬学部でよかったこと」

ニチバン株式会社の製品設計部に所属しています。製品設計部は主に新製品開発を行っており、ニチバングループが持つコア技術を活用し、新製品のコンセプトを満たすテープ構成を設計しています。テープ構成の設計とは、テープの基材層、粘着剤層、剥離層の3つの要素を組み合わせて、求められる機能を実現することです。私が携わった具体的な例では、救急絆創膏の新製品があります。

東京薬科大学の薬学部では、広く科学的な知識を学ぶとともに医療に関わる専門領域を学びます。有機化学、無機化学、物理化学、バイオ医薬品、製剤設計…さまざまな知識を得られることは、薬学部ならでは強みだと感じます。また、私は在学中、生化学教室という研究室に所属し皮膚科学の研究を行っていました。そのため、人体の皮膚の生理現象に関しても、深く学び研究することができました。

大学で学んだ知識は、社会で本当に広く利用され、人々の生活を支えていることに気づきます。

私の仕事のことだけに限っても、例えば、絆創膏の粘着剤の改良には有機化学や無機化学の知識が必要であり、ヒトの皮膚に貼った際の剥がれにくさを研究するには、皮膚の状態・発汗・皮脂などの研究知識が欠かせません。きっと他にも、社会における多くの場所で、薬学部で学ぶ知識は活かされているのだと思います。

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委員会活動や実務実習を経て磨いた「フォロワーシップ」

「薬学部は科目が多すぎて他の経験はできないんじゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、少なくとも東薬ではそんなことはありません。

私の場合、学園祭実行委員会での経験が私にとって特に印象深く、学びの多いものでした。3年次には約450人以上の委員をまとめる中心的な役割を果たし、組織を動かす経験をしました。実行委員会の仕事は多岐に渡り、その中で委員個々人の抱えるタスク量やスケジュール感など全体を俯瞰的に把握し、円滑に進捗を進めるにはどのようなフォローが必要かを考え、潤滑油のような役割を果たしました。この経験を通じて、自分たちで組織を動かす面白さや、円滑に動かすためにステークホルダーとの交渉をすることの奥深さを知ることができたとともに、「組織の成長や成果の向上を目的に、主体的に考えて行動するフォロワーシップ能力」を身に付けることができたと言えます。

低学年次に培ったこの能力の重要性は、高学年になると改めて感じる機会がたくさんあります。特に5年次に行われた実務実習では、周囲の助けになれるよう主体的に考え積極的に動くことが必要な場面が何度もありました。例えば、調剤薬局での実務実習に於いて患者さんが混み合う時間帯や薬剤師が少ない時間帯に、処方箋を見ながら薬のピックアップを行ったり、許可されている限りの調剤業務を行ったりといった場面です。こういった経験から、低学年次に身に付けた力を昇華させ、社会人として必要なフォロワーシップ能力を磨くことができたと思います。

この能力は現在でも、例えば製品開発の検討会議などでとても役に立っています。新製品の設計にあたっては、設計者のアイデアが重要になります。そういった会議の場では、参加者全体の自由で活発な意見交換が不可欠です。大学で培った能力を発揮して、発言しやすい雰囲気を作り、また意見を正確に伝えて議論を促すことで、成果の向上につなげています。

薬剤師の資格を有しながら化学メーカーに進んだ理由

6年間大学で学び、薬剤師の資格を得た自分ですが、現在は必ずしもその資格が必要でない進路に進んでいます。周囲からは疑問の声やもったいないと言われたこともありました。

この道に進もうと思った理由は、大学での経験が影響しています。

上述の通り、学園祭実行委員会で、委員の学生のみならず、教職員や地域の人々、部外の方々など多くのステークホルダーと関わりながら組織を動かし何かを作り上げることの楽しさを知りました。その経験から就活の際には、医療関係者や患者だけでなく、社会の中の多くのステークホルダーと関わることができるメーカーに進みたいと強く思ったのです。
また、5年次の実務実習では、既存医療では助けきれない患者さんの存在を目の当たりにし、「何かを生み出すことで今困っている多くの人を助けたい」と改めて感じました。

メーカーの中でもニチバン株式会社を志望した理由は、大学の研究室OBが参加する卒論内容の意見交換の場が設けられた時、この企業のお話を聞き、魅力を知ったためです。
ニチバンは「セロテープ」や「絆創膏」など、誰もが知っていて広く長く普及している製品を製造しています。自分もそのような誰もが知る商品を創ることができるのではないか。自分が担当した製品は自分の分身のようなものであると思っていて、自分の分身が全国的、全世界的に有名になる可能性があるのではないか。そう思った時、「夢があるなぁ!」と感じたのです。

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大学での学びから将来の夢に繋げる。先輩からのメッセージ

大学では、研究活動や大学で学んだ様々な知識から、肌の性質や、どうしたら目的とする結果が出るのかといった目標達成や課題解決に向けて必要なものを身に付けられたと感じています。現在の仕事では、使用する候補素材を理解するための知識や、製品を設計するためのアイデア発想も大切ですが、最終的には安定した量産に向けてあらゆるステークホルダーに対して説明・交渉する機会が多く、相手の理解・納得を得る説明が必要です。その際は、大学で身につけたコミュニケーション能力、フォロワーシップ能力、それらを基にした課題解決能力が役立っています。

これからの私の夢は、少しでも多くの製品を世の中に投入し、一般に良く知られるロングセラー製品にしたいということ。また、医薬品の経皮吸収型製剤の新製品開発に携わることです。
経皮吸収型製剤の長所は、皮膚から狙った患部に直接浸透していく点、薬の使用状況が一目瞭然である点、そして安全性の高さだと思っています。高齢社会を迎えるにあたり、飲み薬ですと本人も意識せず飲み忘れたり、うまく飲み込めず誤嚥したり、注射だと身体への侵襲性もあるでしょう。そういったリスクを回避できる、患者さんにとっても楽で画期的な医療方法だと考えています。現在、経口薬や注射薬しかない薬を経皮吸収型製剤にしていくことで、今後の社会や患者さんにとって、より楽で安全な医療の提供が可能になるのではないかと考えています。化学メーカーの製品開発者ではありますが、医療や社会にも役立ちたいという想いをもって、日々邁進していきたいです。

私にとって、東京薬科大学とは

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