大村 紀子

薬学研究科 博士課程 2年(取材当時)

千葉県立長生高校 出身

遺伝性疾患の治療法として近年注目されるリードスルー薬|在学生の研究

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大学院 薬学研究科博士2年 薬品化学教室所属

大村 紀子 さん (取材当時)

「遺伝⼦変異を読み⾶ばす」というユニークな特徴に魅せられて

筋ジストロフィーをはじめとする遺伝性疾患の5〜20%は「ナンセンス変異」という遺伝⼦変異が原因であるといわれています。ナンセンス変異性疾患は、構造遺伝⼦中に未熟終⽌コドン(PTC; Premature Termination Codon)が挿⼊され、完全⻑の正常な機能を有するタンパク質の発現が妨げられることで発症します。そこで、PTCを読み⾶ばす(リードスルー)ことにより正常な機能を有するタンパク質を発現させる治療法が近年注目されています。
私は、リードスルー活性を有するジペプチド様抗⽣物質(+)-ネガマイシンに着目し、その化学構造の最適化および分⼦機能研究により、遺伝性疾患の新規治療薬の創製を目指しています。

もともと遺伝⼦治療やオーダーメイド創薬に興味があり、「遺伝子変異を読み⾶ばす」という⼤変ユニークな特徴をもったリードスルー薬に魅せられこのテーマを選びました。
また、本テーマでは有機合成化学による誘導体合成のみならず、培養細胞を⽤いた薬理活性評価や活性評価⽤のプラスミドDNA構築といった⽣化学的な実験も実施しており、さまざまな分野の技術・知識を⾝につけられるのも魅⼒でした。「⾃分で化学合成した誘導体を⾃分の⼿で活性評価する研究スタイル」は、まるで⼩さな製薬企業のようだと思っています。

現在、「⾃分の開発したリードスルー薬を⼀刻も早く患者さんのもとに届けたい」という思いで研究を進めています。しかし実際のところ、アカデミアから新薬を⽣み出すのは経済的にもマンパワー的にも非常に難しいことです。たとえ、⾃分の開発した化合物が薬として実現しなくとも、研究成果を学会や論⽂等で精⼒的に発表していくことで、他の研究者の創造の種となり、そこからまた新たな発明につながればいいなと思っています。

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1つの薬で多くの遺伝性疾患を治療できる可能性を生み出す

最近、遺伝子解析技術が急速に進み、さまざまな難治性疾患で遺伝子変異が同定されています。原因が分かっても、治療法が存在しないというのは患者さんにとって大変苦しい状況です。さらに、遺伝性疾患のほとんどが患者数の少ない希少疾患であるために、疾患毎に薬を開発するのは経済的観点からもハードルが高いです。しかし、私たちの研究するリードスルー薬は、ナンセンス変異によって遺伝子中に生じたストップコドン(PTC)そのものを標的とするため、PTCが挿入された結果発症するナンセンス変異性疾患全てに適用可能な万能薬となる可能性を秘めています。今まで治療法の存在しなかった種々の遺伝性疾患を、ひとつの薬によって克服することができれば、患者さんの福音となり、社会的意義は非常に大きいと考えています。

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研究者という将来像

幼い頃から喘息で薬が欠かせず、症状を楽にしてくれる薬の存在は私にとって大変身近なものでした。次第に薬が人体へ及ぼす影響の大きさやそのメカニズムに関心を抱き、薬学部を志望しました。

研究の道を志したのは、高校生の時に参加した男女共同参画推進実験講座がきっかけです。他大の薬学部で開催されたのですが、研究の第一線で活躍する女性研究者と一緒に化学実験を体験し、研究生活に関するお話をたくさん聞くことができました。本体験が、現在の研究者としての将来像の形成につながっていると思っています。

東薬は、自然豊かで勉強や研究に集中できそうだと思い受験しました。また、入学試験の日に受験生が寒くないように時間差をつけて退出を誘導してくださったことや、突然の雨だったにもかかわらずすぐに傘を配布してくださったことから、学生思いの大学というイメージを抱いたのも決め⼿でした。

後輩へのメッセージ「世界でたった一つの薬を私たちとともに」

薬学には幅広く奥深いサイエンスの世界が広がっています。資格の取得を目指すだけでなく、自分の夢を叶えられる魅力的な研究テーマがきっと見つかるはず。

私は、薬がなくて治療をあきらめる患者さんを一人でも減らしたくて、難治性疾患の治療薬の開発に取り組んでいます。

私たちと一緒に世界でたったひとつの薬を作りませんか?

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