松木 彩華

薬学部 医療衛生薬学科 5年(取材当時)

神奈川県立大和高等学校出身

「成体神経新生」の謎とメカニズム解明に挑む

実習中の疑問からたどり着いた「成体神経新生」の可能性

私は、公衆衛生学教室でメチル水銀による感覚障害に関する研究に取り組んでいます。メチル水銀は水俣病の原因物質として知られており、ラットを用いた先行研究では、痛覚、圧覚、温覚、冷覚などの感覚障害のうち、痛覚のみが障害を受けると報告されています。この研究について3年生の衛生化学・公衆衛生学実習で篠田陽准教授から伺った時、私は「なぜ痛覚だけが障害を受けるのだろう」と強い疑問を持ちました。卒論研究で取り組みたいと考えた私は、篠田准教授が所属する公衆衛生学教室を選びました。卒論研究で痛覚だけが障害を受けるかどうか細胞レベルで証明するため感覚神経の細胞を染めて計測したところ、痛覚以外の神経細胞でも障害が起きている可能性がわかってきました。一方で、これは予想もしていなかったのですが、痛覚、圧覚、温覚、冷覚の神経細胞は、障害によって細胞数が減少した後、一定期間後に細胞数が増えることが確認できました。このことから、末梢神経系において起こっているかどうかが未だ確立していない「成体神経新生」というとても珍しい現象が起きている可能性にたどり着いたのです。

P1001345 3-2 900.jpg

研究と学会発表を支えてくれた卒論教室

卒論教室で藤原泰之教授と篠田准教授から指導を受けて、実験手技やプレゼン力が大きく成長したと感じています。教室に配属された当時は、実験に必要とはいえ、実験手技の原理を学ぶことに苦手意識がありました。先生方とのディスカッションを通して実験手技それぞれの原理と意義を丁寧に教わったことで、実験に不可欠な細胞の染色技術を身につけ、研究成果を導き出すことができたのです。また、先生方に相談すると、はじめに私の意見を尋ねてくださるので、自分の考えを簡潔にまとめて話す練習にもなりました。人前で話すことが苦手な私に学会発表を勧めてくれたのも先生方です。先生方と発表練習をたびたび行い、説明順やスライド内容、話し方などについて具体的なアドバイスを頂きました。練習を重ねるごとにわかりやすく説明できるようになり、少しずつ学会参加に向けて準備が整っていきました。

P1001292 3-2 900.jpg

1年間の成長を経て臨んだ学会での受賞

学会前に知らない人の前でプレゼンする機会がほしいと考えた私は、大学院生が主催した学内研究発表会でポスター発表に挑戦しました。自分の研究内容を異分野の研究に取り組む学生に説明することも初めてでしたが、この経験で相手に合わせてわかりやすく説明するコツをつかむことができたのです。この経験と先生方の発表指導で自信がついた私は、メチル水銀の研究者が参加する「令和5年メチル水銀ミーティング」に臨みました。会場で見守ってくれた先生方からの励ましもあって、私は数十年も先輩の研究者を前にリラックスして研究成果を発表することができました。質疑応答では緊張する場面もありましたが、研究成果に興味を持ってくださる方も多く、「若手研究奨励賞」を受賞できたのです。発表で緊張する場面もありますが、先生方のおかげで、この1年で研究者として大きく成長できたと感じています。

P1001268 3-2 900.jpg

新たな研究テーマ「成体神経新生」に挑む

今後の研究テーマは、神経細胞内で成体神経新生が本当に起きているのか、起きているとしたらそのメカニズムがどうなっているのかを解明することです。従来、神経細胞は、一度減ると増えないと考えられてきました。その神経細胞が、新たに生まれて増えるメカニズムを明らかにできれば、あらゆる神経脱落性末梢神経障害(ニューロパチー)の治療などに応用できる可能性があります。これまでの実験結果から、先生方も成体神経新生が起きている可能性があると期待しています。私自身も通説を覆す成体神経新生について明らかにする新しい研究テーマに挑戦できることにわくわくしています。研究面だけでなく学生生活の面でも気にかけてくれる先生方や卒論教室の仲間との出会いに感謝しながら、これからも地道に努力を重ねて、研究成果を出していきたいと思います。

P1001371 3-2 900.jpg