ニュース&トピックス 日本発の薬剤師主導「口腔ケア教育プログラム」〜フランスでの実装に向け国際共同研究を開始~|プレスリリース

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2025.10.28

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東京薬科大学薬学部医療衛生薬学科 医薬品安全管理学教室 吉田謙介講師と清海杏奈助教らのグループは、抗がん剤治療における口腔粘膜炎の対策に着目し、日本で開発された「薬剤師主導の口腔ケア教育プログラム」をフランスに実装することを目的とした国際共同研究を、フランスの薬剤師・医師と共同で開始しました。本研究は、薬学・歯学・教育の連携により人々の健康行動を支援する「ヘルスアクションプログラム(Health Action Program: HAP)」1の理念に基づき展開しています。当研究は日本での成果を基盤に欧州へと展開するものであり、将来的には国際的に均てん化された口腔ケア教育プログラムの確立に資することが期待されます。これにより、世界規模での口腔ケアの推進と抗がん剤治療を受けるがん患者の生活の質(Q O L)向上に寄与すると考えています。

1:「ヘルスアクションプログラム(HAP)」は、薬学・歯学・教育の連携によって、科学的根拠に基づく健康教育を社会に実装することを目的とした取り組みです。

ポイント

成果について

  • フランス版の口腔ケア教育プログラムを作成し、医師・薬剤師・看護師などの医療スタッフに普及させる。
  • 教材の視聴による知識・意識向上について受講者アンケートを行い、結果を踏まえ、今後の教材整備の在り方および国際展開について検討する。
研究の背景

  • 抗がん剤治療に伴う口腔粘膜炎は患者のQOLを著しく低下させ、治療継続にも影響を及ぼす重要な副作用である。
  • 日本においては薬剤師主導の口腔ケア教育プログラムの有用性が実証された一方で、フランスでは医療従事者不足や制度上の制約が課題となっている。
  • 国際的にがん患者の口腔粘膜炎改善に資する専門的な口腔ケアの仕組みが求められている。

概要

 がん患者において、抗がん剤治療に伴う口腔粘膜炎は治療継続やQOLに大きな影響を与える副作用として知られています。これまでに日本では、病院薬剤師主導によるe-learning形式の口腔ケア教育プログラムを実施し、口腔粘膜炎(グレード2以上)の発生率や発生までの期間が有意に改善することを多機関共同前向きコホート研究で明らかにしました。研究成果は国際誌 Supportive Care in Cancer に掲載され、MASCC/ISOO(シアトル開催)においても発表されています。
 今回、この日本での実績を基盤に、フランスの薬剤師・医師(Dr.S.SMATI:Pharmacy Doctor, Dr.K.SMATI: CHU Reims, Reims, France, Dr.T.DELAVAULT: CHU Reims, Reims, France, Dr.F.SLIMANO: Université de Reims Champagne-Ardenne, BioSpecT, CHU Reims, Service Pharmacie, 51100, Reims, France, Pr.O.BOUCHE : CHU Reims, Reims, France)と協働し、フランスの医療制度や薬剤師の職能に即した教育プログラムの実装研究を開始しました。カリキュラムは、口腔粘膜炎の予防・管理、アセスメント方法、服薬指導、ならびに制度上の制約に対応した薬剤選択などを含む内容で構成され、受講後には教育効果を検証するためのアンケート調査を行う予定です。
 本プログラムは、薬剤師の新たな職能拡大に加え、国際的な口腔ケアの推進やがん患者への包括的な支持療法の強化に資すると考えています。さらにフランスの現場での成果を踏まえ、両国間の知見交流や制度比較を進めることで、より持続可能な国際的教育モデルの構築につながることが期待されます。

  • フランスにおいて、薬剤師はがん患者への服薬指導は原則初回のみ、保険制度の点から選択できる薬剤が限られる、医療従事者のマンパワー不足と口腔ケアに対する知識不足が課題
  • 日本で開発された「薬剤師主導の口腔ケア教育プログラム」の成果を基盤に、フランスで実装することで課題解決につながる可能性

20251028press_image.png日本の口腔ケア教育プログラムの課題解決の可能性について

口腔ケア教育プログラムの概要

項目 内容の概要

1. 口腔粘膜炎の概要

口腔内に発生する炎症の基本的な特徴や症状の理解

2. 症例提示

実際の患者事例を通じた具体的な状況の把握

3. 対策に必要な基礎知識

粘膜構造や病態生理などの基礎医学知識

4. がん治療中の口腔ケアの実際

抗がん剤・放射線治療中の口腔ケアの実践方法

5. グレードのアセスメント

粘膜炎の重症度評価とアセスメントの視点

6. 適切な対応・実践

評価に基づいた適切な対応・ケアの実施方法

 

研究に関するお問い合わせ

東京薬科大学 薬学部 医薬品安全管理学教室 講師 吉田謙介
  • 042-676-6111
  • yoshida[at]toyaku.ac.jp
  • ※メールをご利用の際は、[at]を@に置換してください。

取材に関するお問い合わせ

東京薬科大学 入試・広報センター