ニュース&トピックス 高分子医薬品がヒト脳に届くかわかる「階層スフェロイド型ヒト血液脳関門モデル」の開発に成功|プレスリリース

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2022.07.04

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プレスリリース

高分子医薬品がヒト脳に届くかわかる「階層スフェロイド型ヒト血液脳関門モデル」の開発に成功--中枢神経系疾患に対する抗体医薬・ペプチド医薬の開発促進へ期待

ポイント

  • 本研究では、独自に樹立した三種の可逆的不死化細胞を階層状に組み合わせることにより、ヒト生体の血液脳関門を模倣した構造を持つ「階層スフェロイド型ヒト血液脳関門モデル」を開発しました。
  • 本モデルは、抗体医薬やペプチド医薬がヒト脳へ届くか、ヒトに投与することなく評価することを可能とし、これにより中枢神経系疾患に対する新薬の創出に貢献すると期待されます。
  • 本研究は、主に産学共同研究体制「B4-Quartet」の活動の一環として実施しました。

概要

 近年、抗体やペプチドは脳へ薬物を届けるための薬物送達キャリアとして注目されています。その開発過程では、ヒト血液脳関門を越えて脳へと到達する抗体やペプチドを見出す必要があり、これを効率的・的確に評価するための創薬基盤技術が必要とされています。
 これに対し本研究では、ヒト可逆的不死化細胞を立体的かつ階層状に組み合わせて、ヒトの血液脳関門を形態学的にも高度に模倣する新たなヒト血液脳関門モデル「階層スフェロイド型ヒト血液脳関門モデル」を開発しました。さらに本研究では、このモデルを用いることにより、複数の抗体やペプチドのヒト血液脳関門透過性を評価することが可能であることを明らかとしました。このことは、ヒトに投与せずともヒト脳に届く抗体やペプチドを見出し得ることを示唆しています。本モデルは、新たな創薬基盤技術として中枢神経系疾患に対する抗体医薬・ペプチド医薬開発を飛躍的に促進させることが期待されます。

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発表内容

背景

 中枢神経系疾患(以下、脳疾患)は、治療薬の開発が非常に難しい疾患領域です。この原因の一つに、血液脳関門1)の存在があります。血液脳関門は脳毛細血管内皮細胞2)を実体とし、アストロサイト3)や脳ペリサイト4)とともに構築される脳特有の血管構造であり、血液中の有害物質が脳内に侵入することを防ぐ”バリア”の役割を担っています。しかし、このバリアは薬に対しても働いてしまいます。薬にいくら薬理作用があっても、脳内に入らなければ治療薬として効果が発揮されません。そのため脳疾患に対する治療薬の開発においては、血液脳関門を越えて薬を効果的に脳内へと運ぶキャリア5)を開発することが喫緊の課題となっています。このような薬物脳送達キャリアとして抗体やペプチドが注目されており、その開発過程では、ヒト血液脳関門を越えて脳へと到達するものを見出す必要があります。これにあたり、ヒト血液脳関門を越えて脳へと到達する抗体やペプチドを効率的・的確に探索し、評価するための創薬基盤技術として、ヒト生体の構造や機能を模したヒト血液脳関門モデルが必要とされています。

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研究内容

 本研究では、三種のヒト可逆的不死化血液脳関門細胞(HBMEC/ci18、HASTR/ci35、HBPC/ci37)6)を立体的かつ階層状に配置することにより、ヒト生体の血液脳関門を模倣する三次元型のヒト血液脳関門モデルを構築しました(図2)(ヒト生体の血液脳関門を内外反転させた形態を有しています)。これを階層スフェロイド型ヒト血液脳関門モデル(human multicellular spheroidal blood-brain barrier model, hiMCS-BBBモデル)と呼んでいます。このモデルでは、細胞間結合によるバリアや排泄トランスポーター機能など基本的な血液脳関門機能が認められるとともに、トランスフェリンやインスリンのトランスサイトーシス(受容体介在性トランスサイトーシス7))も認められました(図3)。
 そこで、抗体やペプチドのヒト脳移行性評価系としてのhiMCS-BBBモデルの性能を評価するため、抗体とペプチドを用いた透過性試験を行いました。抗体の評価では、血液脳関門を透過するとされる抗トランスフェリン受容体抗体MEM189と、透過しないとされる抗トランスフェリン受容体抗体13E4を用い、ペプチドの評価では、血液脳関門を透過するSLSペプチドと透過しないDNPペプチド(いずれも熊本大学大槻教授の研究室にて開発)を用いました。その結果、MEM189の血液脳関門透過性は13E4より高く、同様にSLSペプチドの血液脳関門透過性はDNPペプチドより高いことを示す結果が得られました(図4)。この結果より、本モデルを用いることで、抗体やペプチドがヒト脳に届くか否かを、ヒトに投与することなく見極めることが可能になると期待されます。

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 さらに、本研究で開発したhiMCS-BBBモデルは際限なく作ることが可能です。本研究においても、本モデルを繰り返し作って様々な試験を行うことにより、その特性と有用性を検証することができました。したがって、本モデルは抗体やペプチドのスクリーニングを可能とするだけでなく、短期間に繰り返し安定した条件で実験を行うことも可能とします。
 以上、hiMCS-BBBモデルは生体模倣による高度な機能と汎用性の双方を持つ世界でも類を見ない血液脳関門モデルであり、この特徴により、抗体やペプチドを基盤とした薬物脳送達キャリアの探索や評価が可能になると考えられます。

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今後の展望

 今回開発したhiMCS-BBBモデルが創薬現場で活用され、抗体やペプチドによる薬物脳送達キャリアがどれだけヒト脳に届くか予測することができるようになれば、効率的・効果的な臨床試験の実施が可能になると期待されます。さらに、薬剤を効果的に脳へ送達させることが可能なキャリアが開発されれば、多様な新薬の創出につながることが期待されます。
 したがって、hiMCS-BBBモデルは、中枢神経系疾患に対する抗体医薬やペプチド医薬の開発を加速する新たな創薬基盤技術になると期待されます。

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論文情報

 この研究成果は、アメリカ化学会が発行するMolecular Pharmaceutics誌で、2022年6月30日に公開されました。また、関連するプロトコールの詳細は、Bio-protocol誌で、近日公開予定です。

A human immortalized cell-based blood-brain barrier spheroid model offers an evaluation tool for the brain penetration properties of macromolecules
Keita Kitamura, Ayaka Okamoto, Hanae Morio, Ryuto Isogai, Ryo Ito, Yoshiyuki Yamaura, Saki Izumi, Takafumi Komori, Shingo Ito, Sumio Ohtsuki, Hidetaka Akita, Tomomi Furihata.
DOI: https://doi.org/10.1021/acs.molpharmaceut.2c00120

Generation of a Human Conditionally Immortalized Cell-based Multicellular Spheroidal Blood-Brain Barrier Model for Permeability Evaluation of Macromolecules
Ryuto Isogai, Hanae Morio, Ayaka Okamoto, Keita Kitamura, Tomomi Furihata.
DOI: https://doi.org/10.21769/BioProtoc.4465

用語説明

1)血液脳関門
中枢神経系機能の維持と保護のために、脳内と循環血中の物質の往き来を制限する関門構造であり、脳血管の血管内皮細胞を実体とする。関門機能の分子実体は、脳血管内皮細胞同士の強固な結合(密着結合)および細胞に存在する薬物排出トランスポーターである。脳血管内皮細胞がこれら関門機能を発揮するためには、脳周皮細胞(ペリサイト)やアストロサイトなど他の脳内細胞による助けが必要とされる。
2)脳毛細血管内皮細胞
脳の毛細血管を構成している血管内皮細胞。脳全域に薬が行き渡るためには、薬は脳毛細血管内皮細胞による血液脳関門を透過する必要がある。そのため、中枢神経系疾患に対する治療薬開発や薬物治療を考える上では、薬がどれだけ血液脳関門を透過するかが重要である。
3)アストロサイト
中枢神経系に最も多く存在するとされる細胞。アストロサイトは多彩な生理機能を持ち、神経細胞と協調して神経活動を制御しているほか、突起状構造(エンドフィート)を伸ばして脳毛細血管を覆いながら、血液脳関門機能の維持にも必須の役割を担っている。
4)脳ペリサイト
脳毛細血管の周囲に存在する細胞。血管平滑筋細胞と類似の性質も認められるものの、両者は異なる細胞種と考えられている。ペリサイトは全身の血管に認められるものの、血管に対するその存在比率は脳において最も高く、このことが血液脳関門の機能維持に重要であると考えられている。その他にも様々な生理機能を有すると推定されているものの、その詳細については不明な点が多い。
5)薬剤を効果的に脳内へと運ぶキャリア
高分子や構造改変が困難な薬剤を内包または結合することができ、かつ血液脳関門を突破する能力を持つ分子を指す。このようなキャリアを用いることで、様々な薬剤を脳内へと送達させることが可能になると期待されている。未だ実用化には至っていないものの、抗体やリポソームをベースとした脳指向性キャリアの開発が精力的に行われている。
6)可逆的不死化細胞
ヒト不死化細胞は、ヒト初代培養細胞への不死化遺伝子導入により作成することができる(動物由来細胞の場合は、不死化遺伝子を導入したトランスジェニック動物から樹立する例もある)。この際、用いる条件に依存して機能を発揮する不死化遺伝子を導入することで、可逆的不死化細胞を作成することができる。即ち、一定の条件下では永続的な増殖能を発揮するものの、その条件を解除すると不死化シグナルが消え、理論上は初代培養細胞の状態に戻る。不死化遺伝子の機能を限定的な条件下で発揮させる方法は複数あり、温度を用いる方法(本研究で使用)や遺伝子組み換えを用いる方法などが知られている。
7)受容体介在性トランスサイトーシス
ある種のペプチドホルモンやタンパク質など高分子を血液から脳内へと運ぶ経細胞小胞輸送経路として知られる。脳毛細血管内皮細胞の細胞膜上に発現する膜タンパク質にリガンドとなる高分子が結合すると、エンドサイトーシスが生じてリガンド-膜タンパク質複合体が細胞内に取り込まれる。その後、一部は細胞内を移動し、エキソサイトーシス経路を通じて、反対側の細胞膜に到達し、リガンドが細胞外へと移動する。これにより細胞内の小胞輸送を介した血液から脳(または脳から血液)への高分子の輸送が行われると考えられている。
本プロジェクトについて

本研究は、東京薬科大学・千葉大学・エーザイ株式会社・小野薬品工業株式会社が実施する「薬物の脳到達に関わる課題を解決し、中枢神経系疾患治療薬開発の加速を目指す産学共同研究 “The Beyond the Blood-Brain Barrier-Research Quartet (B4-Quartet)”」の活動の一環として、熊本大学の協力を得て実施しました。また、本研究は、科学研究費補助金や持田記念医学薬学振興財団等による支援も受けています。

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本件、下記サイトに掲載されました。

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