学科紹介 多能性幹細胞とiPS細胞

多能性幹細胞とiPS細胞

皆さんは「骨髄バンク」という言葉をご存じでしょうか。骨髄バンクは、骨髄液を提供できる人(ドナー)を登録したシステムのことで、白血病などの血液病の治療法として大切な骨髄移植を支えています。骨髄液には、赤血球や白血球などのさまざまな血液細胞を造り出す基になる細胞が存在します。そのような細胞を「造血幹細胞」と呼びます。骨髄移植は、造血幹細胞を利用した治療方法の一つです。

私たちの体は、一個の卵(らん)が精子と受精することから体作りが開始されます。別の言い方をすると発生が始まります。受精したばかりの細胞は将来、体のどのような細胞にも「分化」できます。細胞がある決まった働きをする細胞に近づくことを細胞が「分化」するといいます。受精したばかりの細胞は分化的に全能性を持っている幹細胞です。この幹細胞は、将来、胎盤の一部に分化する細胞と、体のすべての細胞に分化する「多能性幹細胞」に分化します。つぎに、多能性幹細胞は、肝臓や心臓や血液など、特定の組織の基になる細胞である「組織幹細胞(体性幹細胞ともいう)」に分化し、やがて、私たちの体ができあがります。

造血幹細胞は組織幹細胞に分類される幹細胞です。もし、血液から白血球のような細胞を集めて、試験管の中で「リセット(初期化)」させて多能性幹細胞を人工的に作り出し、造血幹細胞に分化させることができれば、造血幹細胞を骨盤から取り出す必要はなくなります。

ノーベル賞を受賞された山中伸弥先生が作り出した「iPS細胞」は、「人工多能性幹細胞」ともいわれます。分化した皮膚や血液などの細胞に、分化をリセットする4種類の遺伝子を入れて人工的に作り出した多能性幹細胞です。近い将来、iPS細胞を利用することで造血幹細胞を作りだし、治療に利用できる日が来ると期待されています。

このように細胞や遺伝子を扱う先端バイオテクノロジーは、iPS細胞を作る研究を支える大切な技術にもなっています。