研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 薬の品質保証をリードする分析化学

袴田 秀樹 教授

薬学部 医療衛生薬学科 分析化学教室

分析化学ってなに?

分析化学は化学の一分野で、化学的および物理的手法よって、物質の分離、精製、検出のための方法を開発します。薬学では、医療上重要な医薬品の規格基準書として、厚生労働大臣の定める日本薬局方(ニホンヤッキョクホウ:JP)があります。JPでは、試験法(分析法)によって医薬品の性状や品質が規定されており、薬学生は年々増加、高度化する種々の分析法を、それらの進歩に合わせて学んで行かなければなりません。分析化学系の教室のミッションとして、分析化学教育に加え、将来の公定分析法のシーズ(種)となるような基礎研究を推進すること、更に分析化学の分野で活躍できる薬系の研究人材を育成することが挙げられます。

hakamada-3.jpg

メディエータを利用する酸の計測

私たちの教室は、長らく酸と塩基の電気化学反応を取り扱ってきた経験を持っています。その経験を基に、酸であれば、o -キノン誘導体をメディエータとして利用して電解還元させることで、総酸濃度(滴定酸度)に対応する電流信号を観測できることを発見しました。この電解反応はとても応用範囲が広く、最近では、電流-電位曲線を描くボルタンメトリーによって、生薬の北五味子と南五味子を鑑別できることを示しました。また、センサの感応部に組み込み、60秒で日本酒の酸度(コハク酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸の総酸濃度)を測定できる小型のセンサを開発しています。

hakamada-4.jpg

超臨界二酸化炭素を利用するグリーンな分離分析

横軸に温度、縦軸に圧力をとった相図(状態図)においてしばしば見るように、臨界温度よりも高い温度、且つ臨界圧力より高い圧力では、多くの物質は超臨界流体という状態を示します。二酸化炭素の臨界温度は31.1℃、臨界圧力は7.38 MPaですから、比較的温和な条件で超臨界流体となり、自然科学の研究ではよく利用されています。しかし、超臨界二酸化炭素中での物質の電気化学的挙動についてはほとんど研究が行われていませんでした。私たちは、超臨界流体中で電気分解を行うことのできるフロー型の電解セルを作製し、これが検出系として利用できることを示し、有機溶媒の使用を低減したグリーンな超臨界流体クロマトグラフィーシステムを構築しました。

hakamada-1.jpg

トランス脂肪酸の生体膜への影響と応答

類似した構造の物質群(酸化ステロール、植物ステロール、脂肪酸など)に対する生体の感知と応答は、既存の分析法にはない革新的な分析デバイス作製のアイデアを提供できると考え、生物学的な研究も行っています。現在は、トランス脂肪酸に注目しており、これが細胞膜に取り込まれると、細胞がどのような応答を示すかを、低比重リポタンパク質受容体活性と高比重リポタンパク質新生の視点から検討しています。脂肪酸の側鎖の構造の違いを生体が見分ける仕組みには分からない点が多く、蛍光イメージングや質量分析法による定量を取り入れながら、見分ける仕組みから検出原理へと展開していきたいと考えています。

hakamada-7.jpg

分析化学分野の研究人材の育成

以上のように、私たちは本学の分析化学教室ならではの計測技術を基盤として、多様な基礎研究を展開しています。ここで研究を行って力を付け、将来は分析化学の分野で羽ばたいてみませんか?

hakamada-2.jpg