研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 医療DXを用いて患者中心の医療を目指す:未来を変えるデータとAIの力

陳 惠一 教授

薬学部 医療薬学科 一般用医薬品学教室

医療費適正化は国際的な課題

医療費の適正化は、日本だけでなく米国や他の先進国においても重要な課題です。私たちの大学は、カリフォルニア大学や南カリフォルニア大学といった世界的に有名な大学と提携しています。これらの提携を通じて、学生は大学、病院、ヘルスケアIT企業で実践的な研修を受け、臨床薬学のみならず、医療費適正化を目指す医療制度について学んでいます。特に、米国では医療の質とコストを評価するために膨大な医療データが活用されており、患者中心の医療制度への移行が進んでいます。このような新しい医療制度は、日本の医療の未来にも大きな影響を与える可能性があります。

shasin3 900.JPGカリフォルニア大学の教授(医療政策分野)を招へいした講義(右側は陳教授)

アプリを作ってデータを作る:医療従事者の新たな役割

医療データを有効に活用するためには、まず必要なデータを収集する必要があります。例えば、市販されている一般用医薬品(OTC医薬品、大衆薬)の利用に関するデータはこれまで不足していました。そこで、私たちの研究室では、患者が使用した一般用医薬品を記録できるスマートフォンアプリの開発に取り組んでいます。このような患者向けアプリの活用は厚生労働省も推進しています。最近では、ノーコード環境(プログラムコードを必要としない環境)の登場により、プログラミングの知識がない人でもアプリを開発できるようになっています。実際に、私たちの研究室の学生は、比較的短期間にアプリを開発しています。医療従事者自身が自らアプリを開発することで、患者のニーズに基づいた適切な医療の推進と評価が可能となり、医療の質の向上に直接的に貢献できることが期待されます。

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AIでデータを解析する:医療の知見を深める

医療データの解析は、Pythonなどのプログラミング言語を使用するAI技術が一般的な手段となっています。例えば、私たちの研究室の学生は、米国FDA(食品医薬品局)が公開している大規模な副作用情報を活用して、一般用医薬品の副作用発生リスクを解析しています。最近では、ChatGPTのような生成AIを利用して、解析プログラムの作成がこれまでよりも容易かつ迅速に行えるようになっています。以前は1週間かかっていたAI解析が、今では1時間で終了することもあります。このようなAI技術の進歩により、医療従事者自身が膨大な医療データの解析に関与できるようになり、医療における知見の深化が促進されることが期待されます。

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患者中心の医療実現を目指して

米国では、医療機関が行う医療の質やコストが適切かを評価し、その結果に基づいて医療機関に費用を支払う新しい制度が導入されています。日本でも、厚生労働省が医療データを活用して、一人あたりの医療費の可視化や費用対効果などをチェックする指標作りを進めています。私たちの研究室でも企業などと協力し、ビッグデータの解析を通じて、患者の医薬品使用パターンや入院率の低下に寄与する重要な要因、費用対効果の高い医薬品の解析について研究を進めています。このような医療の質とコストに関するビッグデータの解析研究が、将来、政府が推進する患者中心の医療の提供へとつながることを期待しています。

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