研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 神経細胞を守ることは健康寿命を延ばすこと

大滝 博和 教授

薬学部 医療薬学科 機能形態学教室

高齢者の交通事故は高齢者のせい?

私達が子供の頃、腰が曲がった老人を沢山見かけませんでしたか?しかし、その原因の一つが骨粗鬆症であると明らかになり、治療ができるようになった現在は、そのような高齢者を見かけることは少なくなりました。近年のニュースで、高齢者の操作ミスと言われる交通事故がしばしば報道されます。これは歳をとってしまっただけでしょうか?もし、老化の過程で生じる神経の異常な変容を見出し軽減できれば、私達はもっと活動的に歳をとることができるかもしれません。また、認知症はじめとした神経変性疾患の発症も低下できるのではと思います。80歳でオリンピックを目指せるような世界を作りたいですね。

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地球温暖化の代償を払う前に!?

産業革命以後に始まった地球温暖化は、地球規模の気温の上昇を起こしています。2023年も災害ともいえる猛暑で、熱中症により救急搬送される患者がとても多く見られました。熱中症は、臨床経験による治療が主であり、病気の進行の詳細はよくわかっていません。そこで私達は、日本の夏に近い高温多湿環境を模した熱中症モデル動物を作成しました。このモデル動物は、暑熱暴露後の多臓器不全のメカニズムを明らかにできるだけでなく、熱中症との関連が十分に理解されていない神経をはじめとしたさまざまな器官の障害も解析できるかもしれません。私たちが地球温暖化の代償を払う前にその対抗策を作りたいですね。

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グリア細胞を理解して神経を救え!

神経細胞は神経伝達に特化したとても偏った細胞です。その維持には、中枢および末梢神経系に存在するアストログリアやミクログリアなど様々なグリア細胞が担っています。しかし、病態などの周囲の環境などにより、グリア細胞は時に悪魔に時に天使に変貌します。我々はそのグリア細胞の中でも神経の絶縁体を形成するシュワン細胞(末梢)やオリゴデンドロサイト(中枢)、神経系の免疫担当細胞であるミクログリア/マクロファージに着目し神経系の維持に関わるこれらの細胞の役割を調べています。

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アストログリア

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ミクログリア

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シュワン細胞

オーダーメイド間葉系幹細胞は作れるか?

骨髄間葉系幹細胞は、最も医療への応用が進んでいる幹細胞の一つです。この幹細胞は再生能に加え組織の修復を行うことが明らかとなっています。そのため、再生医療だけでなく細胞治療にも使用ができる可能性があります。しかし、骨髄間葉系幹細胞は複数の細胞の集合体でありそれぞれ違った特徴を持っています。我々は、中枢神経系を中心に移植後に神経へ適合しやすい細胞を調べ、それを予備的に集めることにより組織との親和性の高い細胞、移植効果が高い細胞を探し出そうと考えています。

MSCs.jpg骨髄間葉系幹細胞

研究はいつも世界とつながっている!

私達の目は常に世界に向いています。そして、米国、中国、ハンガリーなど世界中の多くの研究者と共に研究しています。また、積極的に海外から研究者を受け入れ、世界に届く神経科学を展開していきたいと考えています。今はオンラインですぐにミーティングもできますし、わずか半日で米国にもヨーロッパにも行けます。研究はいつも世界とつながっています。教室から世界に羽ばたくことができる人材を育成したいと思っています。

004 ootaki1 900.jpg国際学会に参加した大滝教授(画面右から2人目)