研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 生命を支える幹細胞のはたらきを知る

平位 秀世 教授

生命科学部 生命医科学科 幹細胞制御学研究室

幹細胞とは?

ヒトは数十兆にも及ぶ細胞から成り立っている多細胞生物です。ほとんどの細胞には寿命があり、体内では絶えず細胞の死と再生が繰り返されながら個体が維持されています。このような多細胞生物の生命維持を可能にしている仕組みの1つが幹細胞 (組織幹細胞)と呼ばれる細胞の存在です。幹細胞は、様々な細胞に分化できる能力 (多分化能)と、自分自身を複製できる能力 (自己複製能)を兼ね備えています。幹細胞の働きが悪いと、臓器や組織を維持できなくなる一方で、過剰に増えるとがんなどの疾患となります。したがって、幹細胞は生涯にわたって臨機応変に適切な種類の細胞を適切な数だけ供給することで生命を支える細胞といえます。

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造血幹細胞とその制御

私たちは、体の中にある多種多様な幹細胞のなかでも、白血球・赤血球など血液中に存在するすべての細胞の源となる造血幹細胞に焦点をあてて研究しています。骨髄の中に少数存在する造血幹細胞のうち、ある造血幹細胞が血液細胞を供給すると運命が決まった場合、元々持っていた自己複製能や多分化能を徐々に失います。また、必要に応じて増殖し、より専門的な機能を獲得するという多段階の変化を経て、最終的に成熟した血液細胞を生み出します。その過程では、どの血液細胞がどれだけの数必要かという情報処理と、それに対応した制御が巧みに行われていると考えられますが、そのメカニズムにはまだまだ未解明な部分が多く残されています。

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C/EBP転写因子ファミリーによる造血制御

好中球は、生体防御にかかわる白血球の一種で、健康な状態でも血液中に一定数存在します。好中球が体内から無くなると、直ちに微生物の攻撃を受けて生命の危機となり、逆に過剰になっても生体を攻撃して健康に害が生じるため、その数は厳密に調節されています。私たちは、定常状態ではC/EBPαという遺伝子が造血幹細胞からの好中球産生を制御し、感染など急性ストレス負荷時には似た構造を持つC/EBPβが制御することを見出しました。これらC/EBP転写因子ファミリーによる造血制御機構の詳細を明らかにすることは、炎症性疾患や、造血制御が破綻した状態である白血病等の病態解明・治療開発につながると考えて取組んでいます。

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新たな血液細胞の発見とその機能探索

単球は白血球の中でも最も原始的な細胞であり、発生起源的にも興味深く、生体防御における重要な役割からも注目して研究を進めています。従来から、単球はヒトでは少なくとも3種類、マウスでは2種類の不均一な細胞亜集団からなる事が明らかになっていました。その中で、私たちは最近、マウスにおいて新たな単球の亜集団を発見しました。その特徴としてFlt3-ligandという増殖因子に対する受容体を持つこと、造血幹細胞からの分化経路や、細胞単体での機能が従来から知られている単球とはかなり異なっていることがあげられます。生体内での機能的意義も、従来型の単球とは全く異なることが期待され、現在幅広く探索を進めています。

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造血幹細胞と疾患の関連について

どんな病気であっても、病院で行う血液検査のほとんどに血液細胞の数が項目として含まれています。これは、体内の状況の変化を速やかに反映するという血液細胞の特性を生かしたものです。ところが最近になって、逆に老化に伴う血液細胞の変化が血液系のみならず、動脈硬化性疾患・代謝性疾患・がんなど様々な疾患のリスクとなることが明らかとなってきました。私たちは、このような造血幹細胞を含む血液細胞の変化には、若年時の生活習慣や、様々なストレスの負荷が造血幹細胞の中に記憶されていることや、そこに加わる慢性炎症などが誘因になると考えて、このような疾患の予防法確立を目指したメカニズム解明に取組んでいます。

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