研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 病気にならない社会を目指して

丸山 剛 教授

生命科学部 生命医科学科 細胞防御医科学研究室

未病治療・予防治療は、究極の治療?

医療技術の進歩により、人々の平均寿命は長くなっていますが、健康でいられる期間(健康寿命)と平均寿命の間にはまだ差があります。この差は、病気で苦しむ期間を意味しており、この期間をなくすことはまだできていません。もし病気を根絶できれば、人々はもっと健康に長生きできるでしょう。
最近注目されているのは、「未病」という概念です。これは病気になる直前の段階を指し、この段階で治療(予防治療)を行えば、病気の発症を防ぎ、健康寿命を延ばすことができます。未病状態は病気となりうる異常が軽度であるため、治療がより簡単で確実です。「病気にならない社会」を目指すことは理想的ですが、未病の状態についてはまだ多くの研究が必要で、確かな診断法や治療法は確立されていません。これからの研究で、未病への理解を深め、新しい治療法を開発することが期待されています。

P1003057 3-2 900.jpg次世代共焦点ライブイメージング顕微鏡と丸山教授

がんの新たな治療法は?がんも予防できるのか?

日本人の2人に1人が罹患すると言われているがんにおいても、「未病」という状態が存在することが最近明らかになってきました。そもそもがんは、正常な細胞に遺伝子変異が蓄積することで最終的にがん細胞へと変化していきます。このうち、一番初めのステップである、遺伝子変異を一つだけ持っている「前がん細胞」が蓄積した状態が、「がんの未病状態」です。この前がん細胞を早く見つけて取り除くことができれば、がんを予防することが可能です。
私の研究では、免疫細胞ではない上皮細胞(皮膚や臓器の表面を覆う細胞)が、前がん細胞を見つけて攻撃する機能(細胞防御機構)を持っていることが分かりました。これは、前がん細胞を除去する診断・治療法の足がかりとなります。上皮細胞が免疫細胞のように働くことができるということは、がんの予防や治療に新しい道が開ける可能性を秘めた重要な発見です。

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非免疫細胞である上皮細胞による攻撃とは何か?

哺乳類の体では、正常な(健康な)上皮細胞と前がん細胞(がんになりかけの細胞)が行き残りをかけて競争しています。しかし、この生存競争(細胞競合)がどのようにして起こるのか、細胞がどうやってお互いを「認識」するのかは、あまり分かっていませんでした。特に、細胞同士がどのようにして互いに影響を与え合うのか、そのメカニズムに関わるタンパク質はほとんど知られていなかったのです。
しかし、私たちの研究では、非免疫細胞である上皮細胞は、免疫細胞で見られる受容体タンパク質を使って、前がん細胞の特定のタンパク質(MHC-I)を「認識」して攻撃することがわかったのです。上皮細胞によるこの細胞防御の機能(細胞防御機構)を利用することで、発がんを予防する道がさらに拓けてきたのです。

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細胞防御を応用する

細胞防御は、がん、感染症、神経変性疾患など、様々な疾患の予防や治療に役立つ可能性があります。また、再生医療の分野や化粧品、健康食品の開発にも応用が期待できる分野です。このような生命のしくみをうまく使って、新しい薬を作ったりバイオテクノロジーを活用して、私たちの社会をより豊かにすることができればと思っています。

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