研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 光合成微生物パワーを食品・環境・エネルギーに応用

藤原 祥子 教授

生命科学部 応用生命科学科 環境応用植物学研究室

CO2問題の解決を目指して

私たちの研究室では、光合成微生物のCO2固定(①光合成と②石灰化)と③光合成中間産物(糖リン酸)の生成に重要なP及びPと競合性を示す毒性元素Asの研究を行っています。光合成微生物によるCO2固定は、現在地球規模で問題となっているCO2問題を考える上で非常に重要なテーマであると共に、多様な食品の創出にも繋がる魅力的なテーマと言えます。また、光合成微生物による有用物質の回収、毒物の除去も、未来への展開が期待されています。

光合成を利用してユニークな貯蔵多糖、脂質を作る

貯蔵多糖については、この光合成産物が地球上のほとんどの生命を支えていると言っても過言ではありませんが、その構造はα-グルカン(デンプン、グリコーゲン)、β-グルカンと多様性に富みます。私たちは、様々なグルカンの構造解析を行うと共に、変異株の解析により合成機構を明らかにしてきました。さらに現在は、その出現機構について解明し、ユニークな多糖を作ることを目指して研究を展開しています。具体的には、多様性に富む原始紅藻とβ-グルカンを合成するハプト植物に着目しています。また、研究室では、バイオ燃料となりうる脂質の研究や、光合成と呼吸の流れを制御する遺伝子発現機構の解明も進めています。

白亜紀の地層(大理石)を作ったプランクトンの石灰化の技を利用したい

光合成に次ぐCO2固定機構として石灰化があります。なかでも、円石藻は、白亜紀の石灰岩の元となった生物として知られ、現在の海洋におけるC循環においても重要な位置を占めています。円石藻は、ハプト藻植物門に属す微細藻類で、細胞表面に精巧な形態の石灰化された鱗片(円石)をもっています。しかし、その形成の分子機構はほぼ未解明でした。そこで私たちは、この円石形成機構の解明に向けたツールの開発を行ってきました。具体的には、円石形成の可視化・検出系の確立、成分の解析、情報源としての遺伝子ツールの開発を進めてきました。今後は、これらのツールを駆使して美しい円石藻の石灰化の秘密を明らかにして行きます。

光合成パワーで環境水も浄化したい

生物は、Pと同属で環境中に存在する毒性元素Asによって競合的な生育阻害を受けます。Pは貴重な資源で、リン鉱石から生産されそのほとんどが肥料として使用されていますが、現在のところほとんど回収が行われていないことから、富栄養化による環境汚染ばかりではなくリン資源としての枯渇が懸念されています。一方、Asも、バングラデシュ等の広い地域で地下水に高濃度に含まれ汚染が深刻な問題となっています。私たちは、工場排水を流すとPの回収が行える、光合成微生物の培養システムを作ることに成功しました。さらには、リン酸輸送体の性質を変えることによって、P・Asを別々に回収できる可能性があるのではと、検討を行っています。

小っさいけれどパワフルで美しい光合成微生物を使ってわくわくする研究を

今後も、この3つのテーマを柱に地球環境問題あるいは食品に応用可能な夢のある研究を目指し、研究室の皆で力を合わせて共にわくわくできる研究を行っていきたいと思っています。