研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 生命というプラモデルを解明し、こどもの病気を治したい

山内 淳司 教授

生命科学部 分子生命科学科 分子神経科学研究室

こどもが病気を患うということ

もし私たちのようにおとなは自分が病気にかかり、それがもし生命を奪うようなものだとしても、納得して命を終えるかもしれません(納得はできないかもしれませんが・・・)。しかし、生まれたばかりも幼児、成長過程のこどもは自分がどんな病気をもって生まれたか、その結果がどうであるのか、分からない(これは、おとなの土曜ドラマ「いつまでも白い羽根」(新川優愛さん主演)でも語られています。)と思います。

生まれながらにしての病気

こどもの病気の多くは、ウイルスや細菌を原因とする感染症か先天性の病気です。後者は遺伝病ともよばれ、ご両親から遺伝したものと突然におこったものがあります。この先天性の病気の原因は、わたくしたちの細胞になかのある遺伝子(ゲノム)が一箇所または数カ所だけ変わったためにおきるものです。とくに、それが神経をつくる遺伝子であったり、代謝とよばれる生命エネルギーをつくりだす遺伝子であれば、重い病気になります。

先天性の神経病

ほとんどの先天性の神経の病気は、稀少性であり、なかなか治療のしにくいものです。後者を難治性の病気といいます。稀少性と難治性というキーワードが揃えば、その病気を治療する方針がたてにくく、さらに、こどものからだの一部(組織)を薬をつくるために使用したり、こどもを治験とよばれる新しい薬を試すような試験に参加させることは難しいはずです。つまり、新薬をつくり、ためす場合、私たちのような成人が、一部の組織を提供したり、試験に参加するのが普通です。したがって、こどもの病気の新薬をつくることは、なかなか難しいということになります。

人工的にこどもの脳や脊髄をつくる

こどもの神経病を治すために、どうすればいいのか、私たちは考え方を変えました。現在、私どもの研究室では人工的にこどもの組織をつくる研究を行っています。人工的に脳や背骨のなかの脊髄(図1)をつくること。人工的に痛みやかゆみなどを感じる神経(感覚神経)をつくること(図2)。これらが部分的に成功しつつあります。神経は複雑です。一種類の細胞だけでできているわけではなく、さらに、それらは理路整然とした回路網をつくっていなければいけません。

図1

図2

人工的な神経組織を用いて新しい薬をみつける

人工的な脳、脊髄、感覚神経ができれば、それらの細胞のなかの遺伝子を人工的に操作することで、こどもの神経病を再現することができるはずです。今は、それらのアプローチがすこしづつですが、実を結び、病気の組織ができつつあります。また、これらをもとに、RNAとよばれる操作性の高い遺伝子のようなものを薬の候補として利用することに挑戦しています。また、普通に市販されている薬のかたちである小さい化学物質(化合物)を用いて、病気が治療できないかということも並行して研究しています。今後も、このような研究を継続し、すべての「生まれたばかりの命をそのままのかたちで次の世代に受け継ぐことができる」ようにしたいと強く願っています。こどもたちには、ハロウィーンやクリスマスの夜のイルミネーションを、病院の1階ではなく、駅のまわりで、そして公園のまわりで見て欲しい。それが私の願いです。