研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 食品素材の酵素修飾による新価値創出へ

熊澤 義之 教授

生命科学部 応用生命科学科 食品科学研究室

食品の機能と「おいしさ」向上

「食品」は人が健康に生きていく上で欠くことのできない重要なものです。一般的に食品の機能は、生命活動を維持する栄養としての機能(1次機能)、呈味、香気や食感等による「おいしさ」の機能(2次機能)、そして体の調子を整える体調調節の機能(3次機能)に分類されています。食品構造を変えることで特異な機能(ゲル化、乳化、保水等)や物性を発現させた食品は、ここでいう2次機能に含まれるものですが、食品構造を変える技術の一つとして、酵素の利用があります。例えば低温でも柔らかさを保つ米飯、コシのある麺類、弾力の強い練り製品、ジューシーさのある畜肉製品などが酵素技術により実現可能です。

食品タンパク質の酵素的修飾による機能改質

私はこれまでトランスグルタミナーゼ(TG)と呼ばれる酵素の研究開発に携わってきました。この酵素は、タンパク質中のグルタミン残基とリジン残基間を結合させ、高分子化物を形成させることができます。この高分子化を活用して、食品物性(食感)を変えることが可能であり、微生物起源の酵素が実用化されています。タンパク質の架橋高分子化以外にも一級アミンの導入反応やグルタミンをグルタミン酸に変換する働きもありますが、これらの制御や活用は依然研究課題です。また、性質の異なるタンパク質同士を結合させることで、両者の性質を足し合わせた素材創出も可能です。

食品素材に内在するTG

TGは、微生物起源のものを食品素材に添加する以外に、食品素材に元々存在しており、加工工程で反応が進み、物性を変化させることがあります。魚肉や魚卵では、おそらくこの反応が進み、加工品の物性形成に関わっていると考えられます。現在、魚卵に存在する酵素に着目し、魚卵製品のおいしさへの酵素の関与を調べています。

酵素による機能改質研究により新素材創出へ

TGによる酵素改質に関する研究を深めていきたいと考える一方、TG以外にも酵素的架橋高分子化の研究を進めていきたいと思います。今後、酸化酵素類(ポリフェノールオキシダーゼ類)によるタンパク質の架橋高分子化と生成物の機能変化などについて研究を進め、新たな価値を有する食品の創出に繋げていきたいと考えています。