研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 免疫細胞を味方につけて病気を治す

田中 正人 教授

生命科学部 生命医科学科 免疫制御学研究室

免疫細胞は、いつも我々の体を守ってくれるわけじゃない

我々の体内には、たくさんの種類の免疫細胞がいて、体内に侵入した病原体を素早く感知し、これをできるだけ早く排除しようとします。この免疫細胞のおかけで、我々は健康を保つことができています。しかし、この免疫細胞が働きすぎて、炎症が強く起こってしまうと、それが自分自身の組織、細胞を傷つけることがあります。現在、問題になっている新型コロナウイルス感染症でも、ウイルスに対する過剰な免疫応答が、肺炎重症化の原因の一つであることが分かっています。アンバランスな免疫応答が病気を悪化させることがあるのです。

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免疫反応の暴走を抑える新しい免疫細胞の発見

近年、我々の免疫細胞の中には、過剰な免疫応答を抑える働きをする細胞がいることが分かってきました。”制御性T細胞“はこのようなブレーキ役の細胞の中で、最も研究が進んでいる細胞ですが、最近我々は、”制御性単球“という別の種類のブレーキ役を世界で初めて発見しました。この細胞は、健康な時にはほとんど体内にいませんが、炎症が起こると、骨髄で盛んに産生されます。この細胞は、炎症を抑制しつつ、傷ついた組織を修復する役割を担っていることが分かりました。例えば、自己免疫疾患のように免疫反応が暴走している病気の患者さんの体内で、この制御性単球を増やすことができれば、過剰な炎症による病気の悪化を防ぐことができる可能性があります。

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がん患者さんの体内では、がん細胞に対する免疫応答にブレーキがかかっている

免疫細胞の暴走とは逆に、免疫細胞が適切に働かないために、病気になる場合もあります。その代表例が、がんです。我々の体内では、毎日、遺伝子の変異によって、がんの元となる細胞が生まれていますが、健康な人の体内では、これらの細胞は、免疫細胞によって速やかに排除されます。しかし、がんの患者さんでは、何らかの理由により、この免疫系によるがん細胞の排除がうまくいかなくなっていると考えられています。この免疫応答の異常なブレーキにも抑制性の免疫細胞が関わっている可能性があります。

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免疫細胞を賢くコントロールして病気と戦う

このように、我々がかかる病気の多くには、その根底に免疫の異常が潜んでいます。もし、免疫細胞の働きを適切にコントロールする方法を見つけることができれば、難病と言われる様々な病気の画期的な治療法の開発につながります。我々は、免疫細胞を自在にコントロールする方法を発見すべく、日夜研究を進めています。

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