ニュース&トピックス 花粉症の発症メカニズムを取材 ~薬学部・安達禎之教授~|学生広報マガジン『C-LabTimes』

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2021.06.28

こんにちは!私達は東京薬科大学学生広報団体C-Lab“シーラボ”です!
今回は、皆さんも悩んでいる花粉症の、新たに判明した発症メカニズムについて、花粉症研究の第一人者である、東京薬科大学薬学部免疫学教室・安達禎之教授にお話を伺ってきました!(2021年3月31日に取材を実施)

鳥越(学生広報)
私たちが普段悩んでいる花粉症ですが、どのような原因が考えられるのですか?
安達
花粉症を患う日本人は、2019年の統計によると49.2%と国民の約半数が花粉症に苦しんでいます。花粉症の原因の植物は、ヒノキ、ブタクサなど様々ですが、スギ花粉症患者は38.8%ですので、ほとんどが、スギが原因の花粉症です。日本国内には、1年間に500万トン(50億kg)のスギ花粉が、主に2月~4月の間に飛散します。日本人の人口1.2億。つまり、およそ国民の体重分のスギ花粉が2~3か月に集中して飛散していることになります。
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鳥越(学生広報)
そんなに多くの花粉が飛散しているんですね。「花粉が飛んでいるのが見える!」なんて言う人もいますが、私自身はあまり見えていません(笑)。花粉症はどのような仕組みで発症するのでしょうか?
安達
まず、花粉症のメカニズムについて説明します。花粉が目や鼻から入ってくると、リンパ球という細胞が花粉を「侵入者」として認識し、リンパ球はIgEという抗体(病原体などが体内に入ったとき、それと特異的に反応する物質)を作り、IgEが粘膜等にあるマスト細胞という細胞にくっつきます。そして、再び花粉が体内に侵入すると、マスト細胞から、ヒスタミンという化学物質が分泌され、花粉を出来る限り体内に放出しようとします。そのため、花粉を、くしゃみで吹き飛ばす、鼻水や涙で洗い流す、鼻詰まりで中に入れないようにするなどの症状が出ます。 
鳥越(学生広報)

なるほど、体外に花粉を放出しようとするから、くしゃみや鼻水が出るのですね。このような症状が長く続くので、花粉症は非常に厄介だなと感じています。療法はやはり服薬でしょうか?

安達
現在の主な療法は、薬で対処する対処療法(病気の原因を取り除くのでなく、あらわれた症状に応じてする治療法)です。薬には、アレグラ、アレジオン、クラリチンなどの薬があります。これは、ヒスタミンを受容する部分に、ヒスタミンが結合するのを阻害する薬です。また、アレルゲン免疫療法と呼ばれる治療法も存在します。これは、舌下免疫療法とも言い、舌の下にスギ花粉のエキスを含んだ錠剤を入れ、その中の有効成分アレルゲンタンパク質が舌下から入ると、ほぼ花粉症が治ります。しかし、花粉が飛んでいない時でも2~3年毎日、錠剤を舌下に入れ続けなければなりません。
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鳥越(学生広報)
以前、大学のホームページで安達先生の論文発表のプレスリリースを拝見しました。花粉症治療に関する研究成果とのことで、非常に興味を持ちました。
安達
学生の皆さんにも関心を持って頂き、ありがとうございます。現在の療法は、IgE抗体を産生されにくくするものですが、もっと手前の段階での発症を阻害する可能性が発見されました。スギ花粉粒に含まれる(1,3)-βグルカンという成分が、デクチン-1という物質と結合し、免疫細胞の一種である樹状細胞を活性化し、スギ花粉のアレルゲンに対する抗体を作るなどの免疫反応を促進することがわかりました。つまり、(1,3)-βグルカンがデクチン-1と結合するのを防げれば、花粉症の発症を防げます。先ほど述べたように、IgE抗体は花粉症の症状に関連する物質です。デクチン1を持っているマウスに、花粉を点鼻すると、IgE抗体が産生され、マウスがくしゃみをするようになりますが、デクチン1を持たないマウスに花粉を点鼻しても、IgEやIgG抗体が産生されず、マウスはくしゃみをしないことがわかりました。デクチン1の働きを抑制できれば、新しい治療薬が出来て、対処療法ではなく、根本的な治療が出来るようになるかもしれません。
鳥越(学生広報)
花粉症はスギ以外にも色々な種類があるとお聞きしましたが、あらゆる原因の花粉症にも効果のある治療法になるのでしょうか?
安達
従来のアレルゲン免疫療法では、スギ花粉には効果があってもヒノキ花粉に効果がない等、特異性があります。しかし、このデクチン療法ではどちらにも効果があり、いろんな種類の花粉症で悩んでいる人の治療に使えると考えられます。さらに、花粉の中のアレルギーの抗原タンパク質は、果物や野菜のタンパク質と構造が似ているため、花粉症の人が果物や野菜を食べると食物アレルギーを発症することもあります。つまり、IgE抗体が作られないようにすることは、私達にとって、とても大事です。現在の抗ヒスタミン薬は、IgEが作られた後に効きます。季節限定の花粉症と違って、果物や野菜は1年中食べるので、アレルギーを根本から断つのは非常に重要なことです。デクチン療法は、自然免疫系をコントロールすることで、アレルギーにならないような体質に改善することができます。花粉症が、対処療法でなく、根本から治せれば、生活の質を良くすることにつながると期待されます。
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鳥越(学生広報)
薬学部、生命科学部には「研究をやりたい!」という学生が多くいます。私もその一人ですが、これから研究の道に進みたいと思っている在学生や高校生にアドバイスを頂けませんか?
安達
研究とはトライ&エラーです。やってみなければ分かりません。失敗をしたくない、うまいことやりたいと効率を求める人もいるかもしれません。しかし、ちっぽけな人間の浅はかな考えで、壮大な自然の摂理を何とかするのは、簡単ではありません。AI(人工知能)ですべてが解決できるのであれば、色々医薬品ができてしまいますが、そうでないところが自然界です。それを一つ一つ解明していくことが研究の役割です。色んなトライ&エラーをやることは、新しい発見につながる近道かも知れません。たとえ失敗があっても、一つでも何かしら成功体験があると、その人の糧になります。いろんなものにチャレンジしてみて欲しいです。
鳥越(学生広報)

私も、失敗を恐れず様々な事に挑戦する姿勢で、今後進んでいきたいと思います。貴重なお話を頂きありがとうございました。

20210628c-labtimes-4.jpg左から鳥越、安達教授、鈴木

文責

生命科学部 2年 鳥越真貴子(編集長)
薬学部 3年 鈴木 茜、村田くるみ

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東京薬科大学 広報課